長曽我部

□面白い女
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面白い女がいた。




駅前にひっそり佇む小さなカフェ。
俺は大学2年、ちょっとした小遣い稼ぎのために働いていた。

そこでウェイターとして働き始めてからしばらく、一人の女が加わった。


彼女は自分と同じ大学2年生、看護を学んでいるらしい。

大学は違うものの、シフトがよく重なりすぐに打ち解けた。



彼女はパッと見、クール美人といったところである。
しかし、話してみるとなかなか面白い。

というのも、切り返しが気持ち良いもので。

俺の友人にも面白いやつは沢山いるが、中でも珍しい類に属した。


彼女が入って始めの頃、俺が学校でうまくいかずため息をついたときなんか。


「元親先輩、ため息ついてどうしたんです?」


「…ああ、いろいろ、な。

……あー!ったく、ため息ついてばっかじゃ駄目だな俺!」


幸せが逃げちまうぜ!

そう言うと、彼女は実に不思議そうな表情をして



「ため息くらいで逃げるような幸せ、いらないでしょ」



とあっけからんと答えた。

俺は驚いた。今までそんなふうな考えしたことがなかったものだから。


というか、この娘の口からそういったことが出てきたのが驚きで。

稀に見られる妙な男前発言と見た目のギャップはなかなかの破壊力。


その頃から彼女のふいをつくような意外性に惹かれた。

どこか年齢より大人びている彼女がどんなことを考えているのか、興味が沸く。



店長にその話をすると、


「七海ちゃんはとってもイイ子だよ、気が利くし」


なに?惚れたわけ?


店長にしては若いこの男がひどく食いついてきたものだから、
俺はそれを否定し
そそくさとその場から逃げ出した。


好きとかそういうのじゃ無い気がする。

けど目で追っかけてるのは確かで。
今までこんなふうに人を好きになったことなど無い、
わかるわけがなかった。


店長と話しをしてから
そんなふうに考えるようになって

しばらくもしないうちに、あることが起きた。





仕事を終え、帰路についているところだった。
駅近くの公園のベンチに座る彼女がいて。


日も落ち、こんな時間にどうしたのかと気になり歩み寄ってみる。



彼女は泣いていた。


珍しい、というか始めて彼女の涙を見た。


「私は映画とかでしか泣かない」なんて言ってたものだから。

彼女の弱いところに触れたようで、少しだけ胸が疼いた。




「七海、こんなとこで座ってると風邪ひくぜ」


「…」


「アンタなかなかの器量良しなんだ、襲われたらどうするよ…」


「…フラれた。」



は?

思わず声が出た。彼女は涙を拭いながらポツポツと話し始める。

付き合ってそろそろ1年を迎えるはずだったらしい。
それが突然、別れを切り出され

理由を聞いても教えてくれないそうだ。



「…まあいいや、馬鹿馬鹿しいっ!」


それに、私でよかった


そう言ってニッと笑う。真っ赤な目から潤みがキラキラと光った。


どういう意味か尋ねると、いつもの動じぬ表情。



「振られたのが私で良かった 。
もし逆の立場なら、アイツにはこんなの耐えられないわ。」


苦しいのは私だけで、いい



そう言ってまた笑う彼女。

俺は無意識に彼女を強く抱きしめた。


どこまで強くなる気だよ。

そう呟くと、胸に収まる小さな身体が震えた。



「っ…、も、元親せ…」


「アンタを振ったなんて、大馬鹿野郎がいるもんだ」


「…私は、強いから」


「強くなんてならなくていい。

…アンタでいてくれ」



そう言うと、彼女はボロボロと涙目を零し嗚咽を漏らす。


こんなに頑張る彼女を
誰が見過ごせようか。


声を堪えようとする彼女の背中を優しくさすり、「泣け泣け。泣いて、次に笑う準備でもしとけ」
おどけながら言うと
「だ、黙れ…男前…」と鼻声で言われる。


アンタの発言の方が男前だろうよ、そんなふうに思ったのだがあえて胸に留めておく。



ひとしきり泣いて涙が止み、「もう大丈夫」と言う彼女。

俺はその身体を離す前に口を開いた。



「なあ、七海。ちょいと質問」


「…ん、何?」



「アンタの感傷に付け込みたいと思ってるんだけど」



いいか?



耳元で囁く。
腕の中の温度がギュウと熱くなった。












そのまま身体を離すことはなかったとさ。




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