続編1

□レンズ
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佐助さんがいなくなってからひと月が経ちました。


あのあと、自宅に残った彼の痕跡を見るたび涙は出ないもののジワリと胸に熱いものが込み上げて。
帰ったら二人で食べようと買っておいたアイスクリームは今も冷蔵庫に眠っています。



佐助さんの私服やエプロン、まだ彼の香りが残るそれも今となっては懐かしい。

もちろん、佐助さんがいつでも帰って来られるように部屋もそのままにしてあります。


……なんて、彼を思い出していなくなった辛さから逃げたくて
部屋に入ることを避けていただけなのですが。



ひょんなことから始まった私と佐助さんの共同生活に終止符が打たれてから、私は彼との約束を守るべく料理だけはしっかりと作っています。


佐助さんがよく作ってくれたお味噌汁や煮物。

彼の作り慣れていないであろう西洋のお料理もたくさん。

私が大好きだからと、試行錯誤し粉から作ってくれたキッシュやお野菜のパンケーキ……



あ、話してて少し泣きそうです。←



これらのお料理、佐助さんがノートにレシピを書いて残しておいてくださったんです。


帰宅後すぐにキッチンの棚にあるのを発見して
、夜中に佐助さんが何かを書き込んでいる姿を思い出してそれを手に取りました。


ぺらりとめくると

わかりやすく要点をまとめてくださっており、所々に私へのメッセージ(「ここちゃんと分量計るんだよ!不精は大敵」とか)が丁寧に書かれていて。


最初の方は少々たどたどしい文字が並んでおり、ページを進めるたびに上手くなるそれらは彼の勉強の成果を表しています。



このために、文字を書く練習をしていたのでしょうか?



文献を調べるだけなら読めるようになればいい。書ける必要など、絶対に必要というわけでもありません。

それでも「書けなきゃ駄目だから」と、やや譲らない勢いで勉強に励んでいた理由がそれなら…



やはり佐助さんは、どうしようもなく優しい人で

居なくなったあとのことも見通していたんだろうなあと思います。




このレシピに従ってお料理をするようになってから、私は苦手だったお料理が好きになってきました。


佐助さんの文字を目でなぞりながらお料理をすることで、何処か彼を感じ優しい気持ちになって。




今さら、ですけど


私、相当佐助さんのことが好きだったみたいです。



「この『好き』は、友
人としてというよりも……」






………家族愛?


おおお、おそれ多いですよね!
すみません調子に乗りすぎましたごめんなさい。

私なんかが佐助さんと家族だなんて
…、わきまえなさすぎです馬鹿優季…!

そこまで図々しいと呆れられてしまいますよね、うわああ今のは無しです、無しっ!


佐助さんは、その、最後に『恋人』がいい…とおっしゃっていましたが……あれは本当に『恋人』だったのか、なんて最近思い始めまして


そもそも本当にそうおっしゃっていたのか…と。
実は私の聞き間違いだったのでは?とか、実は冗談半分で…とか。


もしそうなら少し複雑な自分がいて。なんで複雑なのかなんて愚問……あれ、なんでなんでしょう?自問自答ばかりで頭が混乱してきましたよ。


でも、もし本当に
あれが世間一般でいう『告白』というものだったなら、私は……




…………。




…………やめましょう。
顔が熱くて、逆上せそうです。





話を戻しましょう。

今日は意を決して佐助さんの部屋を掃除することにしました。

さすがに埃がたまったまま開かずの部屋にしてしまっては元も子もないので。物は極力動かさ
ないように、慎重に作業しようと思います。



いそいそと、ハタキを片手にいざ出陣。
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