猿飛

□不意討ち
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「佐助さん、佐助さん」



「なーに」



「一緒に出掛けませんか?」



「…へえ、優季ちゃんが自分からお出かけを申し出るなんて珍しい」




家計簿をつける手を止めこちらを見遣る佐助さんは本当に不思議そうで。
いかに私が引きこもっているかを、この反応で再認識することができます。


いや、バイト以外での話ですから、以前より多少はマシだと思うんですけどね。




「で、どこに行きたいの?」



「海です」



「海?」



「はい」



「海、好きだったっけ?」



「いえ」




嫌いですよ。




私が小さくそう言うと、佐助さんは再び驚いたように目を見開いて。

しかし、それ以上追求してはきませんでした。




「そ。まあ俺様は暇だし構わないぜ」



「ありがとうございます、では仕度しますので少しお待ちいただけますか」



「はいよー」




私は茶の間をあとにし自室へと戻ります。

クローゼットの中から白と淡いグリーンのレースがあしらわれたワンピースを取りだし、パパっと着替えました。

それから開かずの扉と化して
いた小物入れからお花のネックレスを選び、そっとそれを身に付けます。


最後に簡単にお化粧をして完成。


あれ、予想以上に早く仕度が済んでしまいました。

女の子の準備は時間がかかると一般的に言われますが、私には当てはまらなかったようです。




「お待たせしました」



「早いな、もっと時間かかるのかと思った」



「私も思いました」



「あは、なにそれ」




佐助さんはクスクス笑いながらソファから立ち上がります。

そういえば佐助さんもいつの間にか着替えており、緑のV ネックとダメージの入ったジーンズ姿で。

シンプルな服装はむしろ彼を引き立てており、やはり美形は違うなあと感心します。さすがですね。




「優季ちゃんさあ、イヤらしい目で俺様を見ないでくれなーい?」



「…すみません」



「そこは否定しようよ」



「ふふ、では参りましょうか」



「へいへい」




私達は戸締まりと元栓チェックをしてから玄関へ。

すると靴を履いていると佐助さんが思い出したように「あー」と声をあげました。




「忘れてた」



「何か忘れ物ですか?」



「うん、え
っとね…」




おめかしした優季ちゃん、すっごく可愛いぜ?




突然、耳元でそう囁かれ
私は何がなんだかで理解が追い付かず「は、へ」と変な声を出してしまいます。

それに対し佐助さんはおもいっきり吹き出して「動揺しすぎ」とお腹を抱えました。


あまりに笑うものですから、私は佐助さんの膝をペシリと叩き反抗しました。




「そ、そういうのはズルいです…」




悔しいことに目を見ることはできず。

威力が無に近いのは言うまでもありませんね。



私は顔を見られないように背を向け

パッと扉をひらきました。








『お出かけしましょう』



火照りがはやくとれますように

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