猿飛

□感情
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...............





「篠宮さん、それ片付けたら少し休憩しようか」


「はい」



私は手早く食器を拭き棚にしまうとキッチンタオルを所定位置に戻し、行さんの待つカウンターの隅へと足を運びました。

先ほどまで込み合っていた店内も今は落ち着き、ゆったりとした音楽が静かに流れていて。


私はこの時間が一番好きです。



「お待たせしました」


「お疲れ様。今日もいっぱい頑張ってくれたおかげで、お客様も満足してくださったよ。
…まあ立ち話もなんだし、座って」


私は行さんの言葉に軽く返事をし、木彫りの椅子に腰をかけました。

テーブルにはミルクティーと抹茶のパンケーキが並べられていて。それから行さんが趣味で集めている数種類の蜂蜜が小瓶に注がれています。


行さんの「たんと食べてね」というのを合図に手を合わせ「いただきます」をし、オレンジの蜂蜜をたっぷりパンケーキにかけました。

とろりとパンケーキから流れた蜂蜜が白いお皿に影を落とし、それを口に含んだときを想像しては「ああなんて贅沢なんだろう」と胸の中で幸せを噛み締める私。

食べる前からこんなに興奮して大丈夫?なんて
声が聞こえてきそうですが気にやしません。私はこういった想像が大好きなのです。


それからやっとのことでナイフで切り分け、フォークでそろりと口に運びました。



もぐ


……幸せ!幸せです!!




「篠宮さんって…」


「むぐ、…ん、何ですか?」


「兄弟いる?」


「え」



思わぬ質問。

私が言葉をつまらせ忙しなく動いていた手を止める一方で、行さんは「?」を浮かべてコーヒーをすすります。



「あまり触れない方がいい話題だった?」


「いえ…」


「篠宮さん、お兄さんいそうだなあと思って」


「……はい?」


「心配性のお兄さんとか」


「あ、えと…兄はいませんが…妹なら一人」


「あ、そうなの?」




いると思ったんだけどなあ、お兄さん。


行さんは何を考えてるのか

小さく「おかしいなあ」とぼやきながらパンケーキにさくらんぼの蜂蜜をこれでもかというほどかけて、めいっぱい頬張る行さんはシマリスだとかハムスターに例えられそうです。



「…ちなみに行さんはご兄弟はおられますか?」


「んー、俺は…一人っ子」


「そうなのですか」
「うん。でも従兄弟と一緒に暮らしてるから、似たようなもんだよ」


「従兄弟さん、ですか」


「そう、世話焼きな従兄弟がね。それから父も合わせて3人で暮らしてる。ここから自宅も近いし、一人暮らしするのも…なあ」



ルンと目を輝かせたり苦笑いしたり。
身振り手振りで家族のことを話す行さんはどこか楽しそうです。
優しく細められた目は彼の純粋さを映しているようでした。
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