猿飛

□呼び名
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あれから8日。
私達はいつも通りに過ごしていました。


ご飯を食べて、アルバイトに行って、テレビを見ながら談笑したり。たまに茶化してくる猿飛さんに抵抗するものの結局はしてやられる…そんな毎日。


何事もなかったかのような日々。


それは穏やかで優しくて…恐れていた『当たり前』になりつつあって。

これといって変わったところもなくユルユルと時間が流れる一方で

私自身はチリチリと焼けるような胸の痛みに耐えていました。


いつもの猿飛さんの悪ふざけ。相も変わらずのそれも、今は何故か胸を締め付けて。

どうにも晴れないモヤに日々身を侵されていく感覚に、疲労を覚えつつもありました。




よかったですね、おめでとうございます



そんなふうに彼を祝福したのに偽りは無く、紛れもなく本心であったはずなのに。


それは家主としての意見で、私自身が心から喜べているかと言われるとそうでもないらしいのです。




「勝手です」




誰が?


…なんて。

言うまでもありませんね





「優季ちゃんなにしてんの」


「いえ、特になにもしていませんが…」

「そうじゃなくて。
アンタ今日バイトでしょ。早く出ないと遅れるぜ?」



え、嘘で…あ、ああっ!



「今日、月曜日…」


「あらら、どうしたのさ珍しい。
アンタあそこのことになると普段に比べてえらくしっかりするのに」


「一言多い…いえ、なにもありませんよ」



猿飛さんがジロリとこちらを睨むものですから文句の一つも言えず。

いや、今はそれどころではありません。お店に迷惑だけはかけたくない。


とにかく急いで仕度をしなくては…



「はいはーい、ちょっと待ちな」


「猿飛さん止めないでください。私は急がなくてはならないのです」


「んなこと見てりゃわかるよ。とりあえず落ち着けってこと!
この間急ぎすぎて怪我したの忘れたの?」


「くっ…」


「『くっ…』じゃないっての。
アンタが急いだところで効率悪いの!自覚しなさい!」



オカン口調で猿飛さんはそう言い切ると私を一旦ソファに座らせます。

オカンモードの猿飛さんには敵わない…っていやいや、座ってる余裕なんて無いんですって!


大人しく座る私もどうかしてると思いますが、猿飛さんはそれ以上では…

なんて口には出さないものの、
なにかを悟ったであろうその人に頭を小突かれます。痛いです。
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