猿飛

□夢から覚める
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さーてと。
優季ちゃんを元に戻すにして、だ。一体どんな方法を使うかが問題だよねぇ。

一般的かつ最も可能性のあることっていったら…



「もう一回落とすか」


「……なんだか悪寒が…」



ちっ、勘づかれた。←


世に言うしょっく療法ってやつが効果的かな…なんて思うんだけど。でもまあ、なんだかんだでそれも少し気が引けるもので。一応彼女は己の家主であり、万が一のことがあれば自分にも影響が及ぶ。

…なんて考えてる俺様意地悪〜。ま、当たり前なんだけどさ。


とりあえず優季ちゃんに、俺様が元に戻そうとする意を伝える気はない。というか必要ないでしょ。
彼女にとっても、それは良しとするものでは無いはずだし。
まず、忍が自分の意図やら何やらを曝すこと自体ありえないじゃない?



「どうするかねぇ」


「猿飛さん」


「はいは〜い、何ですかーっと?」


「猿飛さんの誕生日はいつですか?」



そもそも、何歳なのでしょうか?


突然何を言い出すかと思えば。

見ると、てれびで「星占い」というのをやっていて、優季ちゃんが俺様を診ようとしているのがわかった。


へえ。まじないみたいな非現実的なもの、この子が信じてるってのが意外だ。普段とぼけてるくせに、妙なところでしっかりしてるし…たまーに大人びてる。夢のような話よりも、現実みを帯びた話の方が食いつきよさそうだもんなあ。



「俺様、自分の生まれた日わかんないんだよねぇ。物心ついた時には忍として鍛練してたっていうかさ」


「え、…あ」


「だから年齢も知らない。アンタよりは年上だとは思うけど」


優季ちゃんの方が年上だなんて、俺様信じたくないし。



皮肉交えてそう言うものの、優季ちゃんは暗い顔をして黙りこくってしまう。いつもなら適度なツッコミがあるのにそれもない。


あーあ、またこの子はいらない心配して。


神経質なのか、それとも反省するのが好きなのか…よくわからないけど、彼女は少しばかり考えすぎることがある。

別に俺様は気にしてないし(いちいち気にしてたら忍やってらんないでしょ)そこまで無神経な話をしているわけでもない。

なのにこの子ってば「私というやつは何て馴れ馴れしい…」と言わんばかりに暗くなるのだ。


しばらく人間と交流してないとそういうのに敏感になっちゃうのかねぇ?


調子に乗られるのも勘に障るけど、落ち込まれても対応に困るもので。

前までは「適当に放っておけばいいでしょー、めんどくさい」って思ってたのに、
今となっては知らんぷりできない自分がいるなんて……はあ。

俺様も随分丸くなったもんだよね。



「優季ちゃーん?アンタ神経質すぎだって。前にも言ったでしょーが、気にするなって」


「…はい」


「じめじめしちゃって、やだねぇ。本当にカビやキノコだけでなく…そろそろ自身が苔みたいに緑になっちゃうんじゃない?」


「それは嫌、です」


「でしょ?ならほら、シャキッと前向く!」



俺様が「はい、こんなじめじめした話もやめだ!」と言わんばかりに言い放つも、彼女は動く様子がない。

俯く彼女を見かね、どうしたもんかと首を捻る。


ったく…表情戻すついでに、この硝子の神経を叩き治してやろうか。
あは、それじゃ割れるってか?


ちょっぴり物騒なことを考えながら優季ちゃんに歩み寄る。
それから少々強引ではあるがクイっと顎に手を沿え顔を上げさせると、彼女の白い顔がこちらに向けられて。



「……泣くほどのこと?」


「…泣いて、ません」


「涙目でよく言うよ。
…あのね、優季ちゃん。何でそんなに人に気を遣うのかはわかんないけど、アンタがそんな顔してちゃ周りの人も暗くなっちゃうと思うよ?」


「……」


「ご飯食べて気持ち悪いくらい笑ってるアンタは、俺様は嫌いじゃなかったけど」



今の優季ちゃんは、俺様苦手かも。


宥めるように、でも刺は隠さない。
目に涙をためて、グッと込み上げる感情を抑えようとする彼女を俺様は知っている。


表情には出なくたって、目を見ればわかってしまうのだ。


その瞳は俺様のよく知る優季ちゃんのもの、暗く揺れる彼女の瞳は何ら変わりない。
それは哀しみを表していて、「やっぱり」と胸で呟く。


この子は感情豊かで、人よりも繊細な子なんだなって。


普通の22歳の女の子、楽しいときは笑うし辛いときは泣くだろう。そんな当たり前が胸の中だけで、ずっと閉じ込められていたとしたら。

もしかすると、俺様が知らない心に傷を負ってしまったのかもしれない。
そして今もなお、それを引きずっているのだとしたら



「アンタは何を隠してんのさ」



知りたい。この子のことを。


理由なんて興味本位、何度も言うけどそれで充分。

それ意外の理由を持ってはいけないから。それ以上は、どうやっても越えちゃいけないんだ。





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