猿飛
□大切な
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あれから3日。
例の一件があって以降、猿飛さんとの距離が以前より遠退いた気がします。
元から遠かったのが、さらにです。
口を利かないとか、無視をするとかそういうのではありません。
いつもどおりに振る舞う中で、謎の無言が生まれるようになったのです。
「美味しいです」
「そ?よかった」
「はい」
「ん」
「……」
「……」
そして今
妙な気まずさが漂う空気の中、黙々と食事を取っている真っ只中なわけで。
悲しいことに、先ほどからまったく味が感じられません。
せっかく猿飛さんが作ってくださった親子丼が、機械的に胃に流れていくのがわかります。ごめんなさい鳥さん。
私がちらりと猿飛さんを盗み見ますと、あちらもこちらを見ていたらしく視線がぶつかります。
あ、と声が漏れる前に目を逸らされてしまいました。
自然な形でとられたそれに、少しだけ悲しいと思ってしまうのは被害妄想のせいでしょうか。
「ご馳走様」
変わらず食事を素早く済ませた猿飛さんは、スクリと立ち上がり食器を流し台に運びます。
カチャカチャと手慣れた様子で片付けをするその後ろ姿に目をやると。
その背中は、どこか遠くて。
こんな関係がこれからも続いてしまうのでしょうか。
偶然とは言え
奇跡のような巡り会わせをこんな形で済ませてしまって、本当に良いのでしょうか。
私は、嫌です。
なんでだかわからないけれど、胸がギュウと締め付けられて、息苦しくて。
我が儘だと言われても構いません。
私は、この時間を大切にしたいのです。
猿飛さん、あなたは何を思ってるのでしょうか?
私はその背に向かって問い続けます。答えは、返ってはきません。
どうしてこうなってしまったのか、なんて。あまりの愚問に苦笑が漏れそうになりました。
そんなこと言われるまでもなく、自分の醜い心のせいです。
猿飛さんに対して抱いた、寂しさ。嫉妬と偽り、こっそりと隠れていた我が儘。
こんな私を必要としてくれた喜びの反面で、見苦しい執着心が露見され。
そしてそれに愛想をつかされたのは明白です。
だって
自分自身、幻滅したのですから。
嬉しいとか、楽しいだとか。
そういう感情が顔を出した、その陰に潜んでいた憐れなそれら。
気づきたくなかった。
何も要らない。無情と言われたあの頃のままでいいから。
だから
なにも知らないままでいたかった。