猿飛

□「お疲れさまと眠り姫」
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「おっつかれー!」


「お疲れ様」



ほら俺様の胸に飛びこみなさーい

と、とびっきりの笑顔で手を広げる。
受験お疲れハグというやつだ。
やっぱ恋人ならコレでしょ?


俺様が「さあ、いつでもおいで」と構える一方、愛しい彼女は物凄く不快そうな顔をして後ずさりする。


「佐助、テンション無いわー」


「えー、なんでさ」


「…ムードとかあるでしょ」


「ムード?」


頭を傾げて彼女を見遣るとため息をつかれる。

そりゃあ、優季ちゃんの気持ちがわからないわけでもない。いつもどうりなら、こんな急いだ真似はしない。

そもそも俺様こんなことする柄でもないし、むしろこれ竜の旦那だろ?


だがそんな風に言われても、だ。

俺様は今すぐ優季ちゃんを抱きしめて、キスのひとつでもしてやりたいくらいの気持ちなわけで。


最後の試験、頑張る彼女の邪魔をしてはいけないと思い
前期試験と同様、いろいろと自重した。

メールも控え、彼女が欲した時のみ時間を過ごしたり…と、
少々やりすぎなのでは?と思う程の徹底ぶり。

勿論、己の中にぬらりと立ち込め蓄積していく情欲だって抑制した。思春期っていう年でもないけど、これでも盛んな青年男児。我ながらよく堪えたと褒めてやりたい。

ともかく『よき彼氏』を短期間だが成り切った自分に、褒美のひとついただきたいものだ。



「優季ちゃんが物凄く頑張ったのは、俺様が一番よく知ってるよ」


「突然なにを…」


「でも」


俺様もそこそこ頑張ったんだけど?


腕を掴み引き寄せ、そっと囁くと彼女は大人しく抱きしめられる。
耳が少しだけ赤くなっており「ああこの子も我慢してたのか」なんて思いが過ぎる。



「ムード…」


「うるさいお口はチャックしてくんないかなー。黙って抱かれてよ」


「い、言い方がイヤラシイぞ!」


「は、ご所望なら喜んで破廉恥するぜ?」


するかあああ!!と優季ちゃんがガバりと顔を上げる。

勿論、彼女ラバーな俺様にとって
そんな彼女の言動はお見通しなわけで。




ちゅ



「ちぇ、惜しい」


「な、あっ、ば…馬鹿佐助!こここんなんズルイぞ」


「馬鹿でもズルでも結構。つーかすぐ離したら、舌入れらんないじゃんかー」


「知るかっ!というか恥ずかしいことをサラッと言うな!!」



どうしたもんかね、さっきからやたら噛み付いてくるなあ俺様の姫様は。

頬は程よく染まっており、実に食べ頃…ゲフン、可愛らしいのだが。


あれか、久しぶりだから照れてるのかな。←



「よしよし、よーくわかったよ優季ちゃん」


「何か物凄く悪寒を感じるわ。寒気までするし…」


「ん、風邪?」


「アンタのせいだっつーの馬鹿さ…」


「だから」



黙ってろって。



そう言うと優季ちゃんはすぐに押し黙る。
別に口を塞いだわけではない。

優しく、割れ物を扱うかのように抱きしめただけだ。


どんな言葉や行為より、こうした方が案外早く静かになるもので。



「まだ寒いか?」


「…だいじょうぶ」


「あはー。抱きしめられてる時、ほんと静かだよね」


「……」



うるさい。


小さく零されたその言葉に愛おしさが込み上げる。

少しいじけたように頬を膨らませるも、目元が柔らかくなっているそれは子猫のようで。

ムードがどうこうと騒いでいたのは誰だったかなあと思いつつも、俺様自身満足しているわけだから言うことはない。



「これ、好き」


「んー?」


「佐助」



我慢して、側で支えてくれて
ありがとね。



恥ずかしいのか、顔が胸に埋められたままでその表情は見ることができなかった。


でも、それがまた彼女らしくて。



「どーいたしまして」


「…あれ、変なこと言うと思ったのに。なんか素直?」


「俺様はいつも素直で正直者ですっ!ま、俺様もこれ好きだし」



腕の中にある温もりを感じながら目を閉じる。鼻をくすぐる甘い香りは、久しぶりに嗅ぐ彼女の匂い。

手繋ぐのも、キスするのも
そりゃあ身体重ねるのも好きだけど。



「ピカイチだね」


「佐助ってたまーに主語ないから、よくわかんないや」


「偉い人は言いました。考えるな、感じろってさ?」


「ふーん」



そのまま身体を預けるようにしてもたれ掛かる彼女を支え
髪の毛をくしゃりと混ぜてやる。
そーいえば、さっきから眠そうだけど…



「優季ちゃん、最近睡眠取ってる?」


「びみょ」


「びみょ、って…。呂律回ってないよ。
……その調子じゃ寝てないでしょ?試験終わって力抜けたってとこかな」


「んー…」


「もう、世話の妬ける」


そのまま彼女を姫抱きし、ベッドに横にならせる。それから布団をかけてやると、彼女の長い睫毛が瞳を覆い隠した。
やはり眠かったらしく、目をぐしぐしと擦る姿はまた愛らしい。



「……佐助」


「なんだ」


「……嫌いじゃないぞ」


「そこは好きって言って欲しいとこだなあ」



素直じゃないのはどっちだか。


クスりと笑うと、彼女は俺様の小指をキュッと握った。

それから今にも眠りについてしまいそうな危うい瞼を一生懸命に持ち上げ



「…好き」


「っ」


砂糖菓子がとろけたような甘い声で呟かれた。

カッと身体中を熱が駆け巡り体温が上昇するのを感じる。

俺様のフツフツと沸き上がる欲が今にも吹き出しそうになる一方で、力尽きたかのように彼女の瞼がおち息を立てはじめた。



「な」


おいおいおい!それは…卑怯だろ!?

こんな焦らし無しでしょ、と
俺様は愕然と彼女に視線を落とす。



そこには、幸せそうに俺の小指を握り眠る優季ちゃんがいて。




「あー…、まだまだ我慢しなきいけないのかあ…」



堪えられるか自信は無い。
けれど無いとこからなんとかするしかないだろう、なんてね。


こういうのも悪くないと思えるのは彼女に対してのみ沸く感情だろう。



そっと優季ちゃんの額に触れ、それから目元にキスを落とす。




「覚悟してなよ?お姫様」




囁かれた宣戦布告。




返事のないそれは、温かい空気に静かに溶けていった。














惚れた弱み、かねぇ










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全国の受験生の皆様、試験お疲れさまでした\^o^/
宗太から囁かながらのエールです!

そして私自身フリーダムになりましたのでズッコンバッコン更新進めていきたいと思います//´ω`


それでは、拍手ありがとうございました!

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