猿飛

□その理由
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............






優季ちゃんがおかしい。


え?何がおかしいって…

全部だよ全部!




図書館から帰宅してからのこと。
俺様が字を読めるよう指導してくれるという優季ちゃんの提案を
俺様は素直に受け入れた。


まあ字が読めないってのも不便なもので。
何にしても覚えておいて損はない。

あ、料理の本も絵だけじゃわかりにくいんだよねぇ。予想すればなんとかなるけど。

それに『てれびくっきんぐ』でやってた裏技だって書き留めて置くのも悪くない。
こういう情報も案外捨てたもんじゃないでしょ。


昨晩耳にした優季ちゃんの不規則な生活を考えても、
今後のために教えなきゃなあとか思ったりって、料理のことばっか推してるなあ、俺様。



…ともかく。

俺様は驚きの早さでこの時代の字を習得したわけ。
まあ書くのはまだ難しいのだけれど。

とりあえず簡単な書物は一通り読めるまでに頭に叩き込んだ。



俺様って天才かも…
なんて大袈裟なことを考えながら本を閉じる。

一段落したことだし、一服するかねぇと顔を上げたところ
隣にいた優季ちゃんがいないことに気がついた。


あ、そういえばさっき席を立ったっけ。



「さあて、と」



俺様は腰を上げ、気配のする方へと向かう。


もちろん、からかうために探してますけど何か?←
だって優季ちゃんって本当に面白いんだよね。


たまーに勘に障るけど、彼女の鉄仮面にちょっとした変化を見るのはなかなか楽しい。

単に表情に出ないだけで、瞳や声音で感じ取れるものがある。

仕事柄、そういうのに敏感なため密かに意地悪を言っては遊んでいるのだ。


ま、頑張ってお勉強してるご褒美ってことで。


俺様は足取り軽やかに優季ちゃんを探すと
彼女は『きっちん』にいた。




「優季ちゃん」


立ち尽くす彼女に声をかける。

気配を消すでもなく、至って普通に現れたにもかかわらず
優季ちゃんはひどく驚いた様子だった。

どうやら全く気がつかなかったらしい。



そして俺様はすぐに違和感を覚える。


優季ちゃんはすぐに顔を上げ
いつもの調子で声をかけてくる。

甘い香りを身に纏い、猿飛さんもいかがですかと首をやや傾げた。


表情も、声音も、声を発する前に小さく息を吸い込むところも

全部いつもと同じ。

一見、何も気になるところなんて無い。



だけど



「なんか変」



彼女に向けて放った言葉は、そのまま己にふりかかる。


変なのは自分だ。
違和感を感じ取る自分がすでにおかしかった。

見た目もしぐさも何も変わりない。それなのに、変だと感じる自分がいて。


忍の勘だろうか、どうしてもその『違和感』を払拭できずにいた。


俺様の言葉に優季ちゃんは動きを止める。
それから細い首にかかる髪の毛にさらりと触れた。彼女の癖だ。



「私はいつも変です」



何のブレも無く、どこか棘を持ってそう投げかけられる。


『いつも』か。確かにそうだ、この子にとってはこれが普通、当たり前なのかもしれない。


けど
さっきから偉そうに『いつも通り』を口にする自分も、
それに惑わされているんじゃないかって、そう思えた。


俺様はアンタと知り合ってまだ間もないというのに
何がわかると言うんだろう。


この子が『いつも通りに振る舞っている』として、もしそれ自体が彼女の『嘘』だったとしたら。

俺様が思う『いつも通りの彼女』が、偽物だとしたら。


彼女の嘘を
俺様は当たり前のものだと認識させられているんじゃないかって。



もし本当にそうなら、とんだ笑い話だ。


会ったときからこの小娘に、この優秀な忍様が騙されていたことになるのだから。

それが故意に行われたことでなかったとしても、それは俺様にとって屈辱的なものに代わりない。



猿飛佐助を、ナメるなよ。


あってはならないのだ、絶対に。






「アンタ、なんで泣きそうなのさ」



口にしてから、自分で納得する。

そうだ。
さっきから付き纏う違和感はこれ。この子の表情じゃない。


感情だ。



呆然と唇すら動かせずにいる彼女に一瞥をくべ、その場を立ち去る。追っては、来なかった。


そして俺様は居間に戻り、小さく拳を握る。

思い出すのは、優季ちゃんの顔。


無表情だけど、弱った捨て猫みたいなそれ。

見た目の変化は無い、けれど俺様が感じた彼女の感情の揺れは確かだった。
強がりで表情を出さないとは、また違う。


そう思うのは
忍の勘というより、俺様の勘だ。


何が彼女にそうさせるのかは知らない。

けど、俺様を欺く『何か』が間違いなくあって。
俺様にはそれを暴く必要がある、ただそれだけだ。



そう、これは自尊のため。



真田に仕える戦忍、主の名と共にある従者としての誇りを守るためだ。

たとえそれがちっぽけな自尊心だとしても、守る責があると胸に呟く。


視線を床に落とすと
己の影は黒さを増しており、じんわりと広がっていた。




「俺様は、忍だ」




自分に言い聞かせる。
低いそれは、忍『猿飛佐助』その人のもの。





「私情は挟まない、これは」






仕事だ。




















彼女のことを知りたいとか

そんなんじゃない。










******

あとがき&お礼!


ここまで読んでくださりありがとうございました´;∇;`
やっと10話越えた…やっと!


今回は猿飛さん視点で話を進めました。正直夢主ちゃんより書きやすいという←

忍として…と言いながら
私情が入り交ざって本人も混乱しつつあります。

これからジワジワーっと柔らかくしていきたいと思っております…できますでしょうか。←オイ


それから

アンケートをぽちぽち押してくださった皆様ありがとうございますっ!それからメッセージも…とてもとても嬉しかったです°・(ノД`)・°・

読者様への感謝を胸に、これからも更新頑張ります。


それでは、長々と失礼しました。

まだまだ続きますので、これからもお付き合いよろしくお願い致しますm(__)m



3/10 宗太

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