猿飛

□今はまだ
1ページ/1ページ

............






「…忘れてました」


服や日用品を買えたことに満足して、肝心の食料を買うのを忘れていました。
私としたことが、なんたる不覚…。


しかし参りましたね、家にはお米しかありません。卵もお肉も底を尽きてしまっています。

私がうーんと頭を捻っておりますと、猿飛さんが首を傾げました。


「別に一食抜く程度、大したことないでしょ」


「それは、そうですけど」


猿飛さんが初めて来た日ですから
ちゃんと美味しいものを用意したかったんです。


そう言って私は肩を落としました。

だってあちらの世界では食べられないようなものがたくさんあるんですから
食べられる時に食べないと。

いつ帰ってしまうかも、わからないじゃないですか。


そんな私を見て、猿飛さんはキョトンと目を丸くします。

それからすぐに「アンタって本当に馬鹿だね」と言って、少しだけ笑われてしまいました。


「俺様、アンタに何もしてあげらんないのに。どうしてそこまでしようとするんだか」


「私は猿飛さんから見返りを求めていません」


私がしたいからする、これは私の我が儘なのです。


こんな勝手に付き合っていただき申し訳ないのですが、もう少し付き合ってやってください。


そう頭を下げますと、猿飛さんのため息が降ってきます。ああ、とても呆れておられますね。


「やっぱり、優季ちゃんは変わってるよ」


「すみません」


「謝らないで」


ほら、さっさと行くよ。


猿飛さんが私の腕を引いたと思いきや
瞬くまに私の身体はコートやらマフラーやらでコーティングされていて。

状況についていけないでいる私に見兼ねた猿飛さんは、ひょいと私を担ぎあげました。私は動揺して言葉が出てきません。
一体なにを…っ


あ、ここで注意ですが
お姫様抱っことかそんなロマンチックなものではありませんよ。

俵担ぎです。

か弱い乙女を俵担ぎ、なんという扱い。



「自分で乙女とか言っちゃう?痛いよ」


「ここでは、22歳もまだ乙女で通るのですよ」


戦国の世では「イキオクレ」にあたるんでしょうけど。


猿飛さんは私を担いだまま屋根から屋根へと
物凄いスピードで飛び移っていきます。

あのう。陽が落ちているとはいえ、できれば道を歩いて欲しいのですが。


そんな思いをよそに、猿飛さんは音もなく移動を続け、
近所にある小さなスーパーで足を止めました。

あれ、私ここ紹介してなかったはずですが…何で知ってるんでしょうか。


「でぱーとで会ったおばさんが、ここの話してたから」


「当たり前のように漏れてるんですね私の心の声」


「いや、今のは読心術」


「え」


「あはー、冗談だよ」


「……」


どこまで冗談なのでしょうか、私わからなくなってきました。
忍スキルは未知数で、私のちっぽけな脳では理解が及びません。
本当のところ、実は読心術なんかも会得しているような気もしますが
あえて聞かないでおきましょう。



「優季ちゃん、とにかく中入ろ。寒いし」


「あ、そうですね」


私達はゆるりと開く自動ドアをくぐり入店しました。

買い物カゴを持って、わりと広い店内を二人並んで回っていきます。

午後7時をとっくに回っているため、お客さんはわりと少なめ。
割引シールもちらほら貼られていますし、遅めに来るのも悪くないですね。


お野菜のコーナー、発酵食品のコーナー、お魚やお肉のコーナー…猿飛さんは興味津々にそれらを見ているご様子。

デパートの時よりも輝いてみえます。やはりオカン気質だからでしょうか。


「あのねぇ、そろそろ本気で殴るよ?」


「すみません、出来れば話し合いでお願いします」


「まったく…」


「やはり、この時代の食べ物とか気になりますか?」


「そりゃあね。まさかここまで豊かになるなんて、考えてもみなかったよ。それにどれもこれもあっちでは貴重なものばかりだし」


食べれるだけでありがたい、そんな時代だもの。


淡々とした口調でそう言われ、私は何も言えませんでした。

知識としては頭にあったもの、けれど猿飛さんから語られるそれは思った以上に重みがあって。

平凡に生きてきた自分が
安易に言葉を発して良いものかと、躊躇してしまいました。


パタリと口を閉ざした私。

猿飛さんはそんな私の考えを察したのか、
「ああもう」と言って
私の頭をくしゃくしゃと混ぜました。
乱暴ですが、それはどこか優しくて。


「何暗い顔してんの、みっともない。
俺様はただ、未来では庶民でも飢えることなく暮らせるんだな、なんか新鮮〜って意味で言っただけだよ」


「…はい」


「アンタね、深く考えすぎだし気遣いすぎ。思ったこと、素直に言えばいいでしょ」


「素直に、ですか」


「そ。アンタただでさえ表情乏しいんだからさ、口に出して意志表示しなよ。別に誰も責めやしないんだから。
あ、でもさっきみたいなナメたこと言ったら俺様容赦しないけどね?」


「…気をつけます」


「よろしい」



猿飛さんはそう言ってクスリと笑われました。

それからすぐに商品の方へと目線を移し、
何これ?とヨーグルトを見つめます。


なんででしょう。

会って間もないこの忍さんに、私はいろいろと見抜かれてしまっているみたいで。

悔しいような、嬉しいような。

さっきから胸のあたりが、
なんだかくすぐったいのです。




「ありがとうございます」


「は、何が?」


「言いたかっただけです、気にしないでください」


「ふーん」


優季ちゃんってば変人〜。


…ちょっとだけムッとしちゃいましたが、今は抑えることにします。


これが私の 素直な気持ち ですから。




「よし、だいたい必要な食材は手に入りました」


「これでなに作るの?俺様検討もつかないんだけど」


「それはお楽しみです」


「さいでー」


私達はササッとレジで支払いを終え、店をあとにします。
荷物はさりげなく猿飛さんが持ってくださいます、フェミニストさんですね。



帰り際に

「どんなカラクリなの、あれ」

と自動ドアの謎について
神妙な顔をする猿飛さんの横顔を見た私は、

今度ネットを教えてあげようかなんて思いました。











いつか笑顔で


ありがとう、って。








********



なかなか話が進まないよー(^P^)
やりたいことが山積みで…くっ!

じっくりコトコト消化していきます´・ω・


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ