猿飛

□砂糖菓子には
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女の子はね。
可愛いくて、柔らかくて、ふわふわしていて、とってもいいにおいがするものなのです。

そうそれは、砂糖菓子のような。

お腹をすかせたオオカミさん。
目の前に美味しそうなそれを差し出されれば、お肉で無くとも思わず食べてしまいます。
ほんの少し、空腹を満たせられればいいと、安易に手を出してしまうのです。
けれどそれを一度口にしては、その手を止めることは容易ではありません。
むしゃりむしゃりと頬張れば、その甘くて優しい味に魅了され、もっともっとと欲が出てきてしまうでしょう。
そしてお口の中で呆気なく溶けて消えてしまったそれを想い、もっとずっとお腹が空いてしまうのです。


女の子は砂糖菓子。

けれど、単に溶けて消えるわけではないのです。



そんな私もそのうちの一人。
砂糖菓子と名乗りながらも、きちんとターゲットを捉えているのです。

いえいえ、私は砂糖菓子。取って食おうなんて考えてやいませんよ?


だって、私の狙いはただひとつ。


「仲良くしよう、佐助」


声をかけると彼の瞳に私が移りこみます。そっと私を包み込むその優しい瞳は、私の昔からのお気に入りなのです。

彼は私を見遣ると「また?」と言わんばかりの困り顔をしました。


「優季ちゃん?俺様ね、すでに優季ちゃんとは
じゅーぶんに仲良しだと思うんだ」


「いやいや、足りない。もっともっと、仲良くなりたいんだ」


ええ、私と佐助はとっても仲が良いのです。
家も隣の幼なじみで、小中高と同じ学校に通い、大学まで一緒という徹底ぶり。
人生の3分の2以上を共に過ごした、正真正銘の仲良しさんです。
ご近所さんでも有名な、名コンビとまで言われるほどにですよ。


けれど、私は物足りないのです。
佐助と仲が良いと考えれば考えるほど、もっともっとと欲が出てくるのです。
一緒にいれば楽しい、側にいると安心する、喧嘩をすれば酷く悲しい、仲直りをすれば跳びはねてしまうくらい嬉しい。

私の感情は彼と共にあって、私であるには彼が必要なのだと気づいてしまったのです。
また、その先にあるものがとても素晴らしいような気がして、冒険家のようなワクワク感もあって。

ですから私は願うのです。

佐助と、もっとずっと『仲良し』になりたいと。


私はありったけの想いを彼に訴えます。どうすればあなたと今以上に親しくなれるのでしょうか、と。
佐助はやっぱり困り顔で、でも嫌がっているわけじゃなくて。
私の気持ちに答えようとしてくれているんだと、そう考えるとさらに気持ちが強まってしまうのです。

ああもう、誰か方法を教えてはくれないのでしょうか。
この貪欲な私の空腹を満たしてくれる、甘くて美味しい果実をどうか。


「優季ちゃん」


「なんだ、佐助。私と潔く仲良しになる気になったか?」


「んー…まあそんなとこかな」


なんということでしょうか。
さすがは佐助、私の選んだ人!
こんなに優しい人と仲良しになれるんですから、私はこの世界で一番の幸せ者に違いありません。

嬉しさから万歳をしそうになるのを抑えていますと、佐助が急に神妙な顔をしてこちらを見つめます。

…はて、何だかいつもと様子が違いますけど、どうかしたのでしょうか?



「優季ちゃんは、俺様と仲良くなりたいんだよね?」


「う、うん。そうだぞ」


「じゃあさ、仲良くって友達として?幼なじみとして?」


「う…え、いや、特に形式にこだわりは…」


ええ。だって私は佐助の幼なじみであり友達ですもの。これは変えようのない事実で、これからも変わらないでしょう?

そう言うと、佐助が私の腕を引き
そのまま私を包み込み…え、は、ちょっと、待ってくださ…っ



「俺様、優季ちゃんのこと好きだよ」


「さ、すけ…?」


「アンタはずっと俺様の幼なじみで、友達で。確かに変えようのない事実だよ」



だからそこに、『恋人』って追加してくれないかなぁ



そういって私を抱きしめるその腕は少しだけ震えていて。胸板からはトクン、トクンと彼の時間を刻む音が聞こえてきます。


そして、私は混乱した頭でとっさに思ってしまったのです。



「この人を食べてしまいたい」と。


けれど忘れてはいけません。


私は女の子。

可愛いくて、柔らかくて、ふわふわしていて、とってもいいにおいがするものなのです。

それはまるで、砂糖菓子のような。



ですから、このことは

誰にも知られないように

私の胸の中に
そっと閉まっておくことにしましょうか。












甘く見すぎてはいけませんよ?






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肉食系砂糖菓子娘です(・ω・笑)
そんでもって、ちょっとウブだったりすればいいなって思います←

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