猿飛

□こんにちは
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「猿飛さん、猿飛さん」


「はいはい、裾引っ張んないでくれる?」


首絞まるからさぁ。


そう言われて、
私は猿飛さんのポンチョからすぐに手を離しました。

心なしか、先程より冷たく感じるその声音。

ルールを決めてから、様子がおかしい気がします。



「すみません。何度か呼んだんですが聞こえてなかったみたいですので、つい」


「聞こえてたけどね。困ってるみたいでおもしろかったから返事しなかったの」


あ、やっぱりいつもの猿飛さんですね。意地悪です。

これってゲームの中の猿飛さんで例えるなら、
忍モード猿飛さんなんでしょうか。

もしかして
付き纏うオカンの名を払拭しようとしているのですかね、ふふ。

なんて考えてたら睨まれました。怖いです。



「アンタさっきからダダ漏れてるそれ、わざと?」


「いえ、ヒトサマの悪口を故意に言うなんて恐れ多いです。私には出来ません」


「てことは本音か。」


「すみません」



私何回謝っても足りない気がします。
申し訳ない気持ちは沢山あるのですが、上手く相手に伝えられないのですよ。


すみません、と。


いくら心を込めても
私の固い口角は微動だにしないのです。
無表情で謝罪して、誰が信じるというのでしょうか。

私には反省を表すための素材が少なすぎて。
でも自分にはこれが精一杯で。

相手からすれば、余計不愉快なんでしょうね。


こんな私でも、
何とかならないかと
真剣に悩んだ時期もありました。



けれど、もう諦めちゃったんです。





「…で、何か用なの?」


「え、あ…はい、すみません。家にある物を説明したいとは思うのですが、食料も洗剤も切らしてしまってて…」


ですから、買い出しに行こうと思うのです。


そういうと猿飛さんはへぇと興味なさそうに頷きました。



「それで、です。大きなお店に行って、猿飛さんのお洋服…着替えも買っちゃおうかと」


「着替えって、これでいいでしょ」


「失礼ですが、ここでその格好は目立ち過ぎます。忍ばない忍を体現することになるかと」


それにただでさえ目立つお顔立ちなんですから。


私はそう言って立ち上がりました。

そのまま自室にまで足を運びますと、
後ろから猿飛さんがチョコチョコとついて来ます。


ピク〇ンみたいで可愛いですね。



冷たい床をぺたりぺたりと歩き、自室に入りました。

それから閑散とした部屋にポツンと浮いたクローゼットの前に立ち、一息つきます。


よし。


そう意気込んだあと
重い扉をゆっくりと開き、
ガサゴソと目的の物を探しました。

その間猿飛さんはベットに腰を下ろしてこちらを見ています。




「…ありました」


「なになに〜」


「ひとまず、これを着て行きましょう。」


「俺様このままで…」


「郷に入れば郷に従え」


って、昔の人が言った言葉ですよね。


私がしっかりとした口調で言いますと、
猿飛さんは「さいでー」と言いながら
お洋服を受け取りました。

手に掴んだそれを見遣り、めんどくさそうにため息をついています。



「では私は先程の部屋に居ますから、着替えたら来て下さいね」


「覗かないでね?」


「残念ながら」


男性の裸に興味はございません


キッパリと言いその場を離れました。


男性は置いとくとして、女性の身体は気になります。

同じ女性として、
何故あのように立派に発育するんだろう、とか。

特にかすがさん、彼女のスタイルは凄まじい。あんなラインがハッキリと出る服、着こなせるのは彼女だけだと思います。

まったく、あの時代に何食べたらあんな風になれるんでしょうかね。

私は自分の胸に手を当てます。


残念、平地です。


はぁ、まあ無くても困りはしないんですけどね…。あ、これ声に出てませんよね?

猿飛さんに聞かれたら一生ネタにされそうで怖いです。


私はお口にチャックをして、そそくさと部屋に移動しました。







*************






「優季ちゃん、着替えたよー」


「あ、はいどうぞ中へ」


「はいよーっと」




ガチャリと開かれた扉の向こうには見慣れているはずの、見慣れない人。


うわぁ、すごくモデルさんですね



「ど?似合う?」


「似合いすぎて驚いちゃいました。」


「にしては表情変わってないけどね」


「これは元からですのでご容赦ください」



唇を尖らせる猿飛さんはどんな格好をしても絵になりそうです。

金の刺繍をあしらった白と黒のアンサンブルに、ジーンズというシンプルな組み合わせ。


けれど見事に着こなされたそれらは
某有名ブランドにすら見えます。

猿飛さんマジック…忍術か何かですか、これは。



「着心地悪くないですか?」


「んー、まあ大丈夫だけど。あえていうなら首のとこチクチクする」


あ、タグですね。あとで取りましょうか。

猿飛さんの見事な着こなしを見たところで、
私も簡単に着替えて出かけることにしました。



出かける前
猿飛さんにマフラーを巻いてさし上げると、「あったかい」
とのお言葉をいただきました。

何気ない一言に、私はなんとなくホコホコした気持ちになります。




さあ、久しぶりに外の世界へ行きましょうか。













遠出なんて、いつぶりでしょうか。





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