猿飛

□カウントダウンの過ごし方
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「せんせーさよーならっ!」


「気をつけて帰りなよー、また明日ね」




下校時刻。生徒達が一斉に廊下に流れ始める。

ぎゅうぎゅうと身動きの取り辛そうな彼等を見遣り、俺様はコーヒーを口に運ぶ。


インスタントより豆がいいよねー、うん。


そんなことを考えながら、テキパキと仕事をこなしていると
ドアの隙間から顔を覗かせる生徒に気がついた。


俺様が「だーれ?」と声をかけると

ガラリ、勢いよく何者かが飛び込んできた。




「猿飛先生、人が減るまで居させて…」



そこには我が教え子がいて
ひどく疲れた顔をしている。


どうやら人酔いしたのであろう、あまり顔色がよくない。




「いいよ。こっちおいで」



手招きするとヨロヨロと自分の前の椅子に座り、はぁぁと大きなため息を吐いた。


なんとなくその垂れ下がった頭に手をやり、くしゃりと髪を混ぜてみる。
シャンプーの甘い香りが鼻をくすぐった。




「あいつら…五月蝿すぎる。」


「仕方ないんじゃない?今日から3年は仮卒だし、はしゃいでるんだよ」


「……迷惑な」



またもため息を吐く。
先程よりガックリと頭を下げると、艶やかな髪の毛が重力に従い垂れ下がるのを見る。



「明日からは補習だし、あと少しの辛抱だよ優季ちゃん」

「…英語イヤだ」


「竜のだ……いや。
伊達先生の授業わかりやすいでしょ?」



伊達先生、同僚であり俺様の飲み仲間。

そして、イケメン変態教師と言われる男のことだ。


普段はチャラ男全開で

「卒業したらLadyは全員俺のGirlfriendになれよ!」

なんて平気で言う。


また、女子のスカートを見て

「HA!そんな中途半端な丈ならいっそ脱いじまえよ!」

なんて言って
PTAが動かされそうになるという武勇伝を持っていた。


しかし授業になるとかなりの腕前を見せる。

生徒からの圧倒的な人気もあり、また教師陣から一目置かれている存在だ。



俺様が「んー?」と宥めていると、彼女がポツリと呟いた。



「伊達先生が嫌なんじゃない…」


「?」


「……。」



プツリと黙りこむ彼女の顔を覗きこむと、なんとなく頬が赤くて。

モゴモゴと口が動いてはいるがなかなか声にならずにいた。


俺様は頭を撫でながらじっと待っていると、彼女は顔を上げる。




「猿飛先生、英語教えて…」


「…あの、俺様は化学教師なんだけど」


「そんなん…わかってる、けど」



目を逸らし、ムゥと拗ねた様子の彼女。


俺様はすぐに彼女の意を察し、ああと手を打った。



それからこっちを見ない彼女に
「これ見て?」と声をかけると
ゆっくりとこちらを向いた。


そこから流れ作業のように、
クイと顎を持ち上げる。



驚いた表情の教え子。
可愛い、なんていまさらで。



ふっくらと柔らかい感触を
指の腹で楽しんだあと、

そのままそれを唇に運んだ。


舌をねじ入れ、チュプといやらしい音を立てて舌を絡める。

息苦しそうに、声を漏らす彼女を眺めて
ベッドの無いこの部屋が、ひどく残念に感じる。



唇を離すと、ぷはっと酸素を取り込む彼女が愛おしくて。

最後に下唇を舐めてやると、
涙目の真っ赤な顔が恨めしそうにこちらを睨んでいた。



「がっ、学校ではしない約束だぞ…」


「そんなこと言っちゃってー。優季ちゃんさぁ」


寂しいんでしょ?



ニヤリと口角を上げると、
彼女の声にならないそれが心地好くて。


可愛いとか、愛おしいとか。

何回繰り返しても足りないそれに、もどかしさが募る。




「ほらほら、猿飛先生に早く言いたいこと言ってみなさい?」


「…………残りの時間、側に居たい…」


「よくできました」



耳に唇を寄せると彼女の肩が跳ねて、
そのまま小さく囁いてやった。



「俺様んとこでプリントすればいいよー…なんて、言いたいところだけど」


「だ、駄目…?」


「駄目っていうか…ね」



コソっと耳打ちすると、
彼女が真っ赤な顔して立ち上がる。


そして、今や静けさを取り戻した廊下に向かって
飛び出して行ってしまった。



その慌ただしい背中を見て、
俺様は小さく笑った。














「優季ちゃん限定の特別補習、したくなるんだけど?」





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