猿飛

□教えてあげる
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............




「コタツってさ」


「うん」


「幸せだよねー」


「そうだねぇ」




ぬくぬくと。


気温がいつもより低い冬の日。


大学入試を間近に控えた俺様と優季ちゃん。
しかしそんなことも関係なく。


二人してコタツの魔力に魅了されていた。



何をするわけでも無く、ぼんやりとくつろいでいると

優季ちゃんがおもむろに口を開いた。




「たまにね、昔を思い出すんだ」


「どっちの?」


「『戦国(むかし)』の。」


「へぇ。」


「うっかりね、佐助や真田君達の前だと敬語になっちゃいそうになるんだー。」


「…よしてよねー。」



俺様達はもう立場なんか気にしなくていいんだよ。




そう言って、ゆっくりと腕を伸ばし
机に伸びている恋人の頭をなぜる。



いわく、ちらほら夢で見るそうな。


昔の、戦国の頃の記憶が俺様達には在った。断片的に、でも鮮明に。


俺様は忍びとして、優季ちゃんは女中として真田に仕えていて。

真田の従者であると同時に、俺様達は恋人でもあった。



だけど結果から言うと、俺様達の最後はお互いに覚えていない。

幸せに添い遂げ続けたのか。

それとも戦国の世、主のために力を尽くし最後を締めくくったのか…



正直、今となってはどうでもよいことでもある。


なんせ今、こうして再び平安の世で巡り会い、
こんなふうに和やかに時を共にできるのだから。



優季ちゃんも同じなんだろうね、あまり過去については触れない。




俺様達は、今を生きていた。




「優季ちゃんが前世の話するなんて、珍しいね」


「そうだなあ…うん、そうだね」



別に不安とか、そんなんじゃないんだけど。


そういって、少し何かを考えるしぐさをする。
その昔からのその癖を、愛しく思う。

俺様が彼女の髪の毛をすくい、指先で遊んでいると、フと口をついた。



「こんなふうにしてるのが、夢なんじゃないか。…なんて思ったり。」



ゆったりとした口調でそんなことを言うものだから、少し驚く。

一方、その張本人は
コタツの温もりでトロンとした様子だった。



それが少し悔しくて、
とろけてほんのりと染まった頬に唇を寄せた。

ジジジというコタツの音を遮るように、リップオンが室内に響く。


それから
みるみるうちに赤くなる恋人を見、ニンマリと笑ってみせる。


彼女は顔を伏せ、小さく唸った。




「ず、ずるいずるい…それは、ずるいぞ……」


「あは、目覚めた?こっちは現実だよ、優季ちゃん」


「…馬鹿。」



悔しそうな、羞恥を堪えたような声が性を刺激する。


なんとなく悪戯心がくすぐられ

ちらりとのぞいている、その真っ赤な耳を甘噛みすると甲高い声が上がった。




「な、なな…な…っ!!」


「あれー、まだ覚めてないの?困った子だねぇ」


「!!い、ちが…」


「仕方ないや」




今すぐ、覚ましてあげる。




大慌てでコタツから脱出しようとする恋人にそっと囁き、


そのまま中に引きずりこんだ。













(あっつ…、俺様かなり汗かいたかも)

(馬鹿馬鹿馬鹿)

(え?もう一回?じゃあもう少し頑張って…)

(Σよ、寄るなぁああ!!)

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