猿飛
□毒抜き
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はてさて。
とりあえず自己紹介も済んだことですし、次はどうしましょうか。
いざ何か行動を起こそうとすると、なかなか手に着かないんですよね。
私がむむーと頭を悩ませていると、猿飛さんが眉根を寄せてこちらを見つめておりました。
なんですか、すっぴん顔だからあまり見ないでくださいますか。まあ、お化粧なんてしばらくしちゃいないんですけどね。
「すみません猿飛さん。私、優柔不断なもので何を優先すればいいのか…」
「首…」
「はい?」
「まず首、血出てるから」
手当がまず先。
そう言われて、そういえば切られたましたっけと把握します。
てっきり忘れちゃってました、首。
「あ、でも大丈夫です。すぐ治りますよこの程度」
「毒塗ってたからそろそろ回るころかなって」
「あの、もしかして普通に頃合い伺ってました?」
私まだ死にたくは無いのですが…
腕を組んで「どうしましょう?」と猿飛さんに尋ねると、これでもかというほどため息をつかれちゃいました。
そして哀れむような目でこちらを見るものですから、私は反応に困ってしまいます。
何かしら失礼なことでも言ってしまったのでしょうか。全く思い当たるところがないのですが。
「アンタって本当に危機感ってものがないよね。死ぬって意味、わかってる?」
「ええ、一応は。」
「にしては落ち着いてるし。怖くないの」
「怖い…ですか。」
私は怖がってるんですかね?
それすらよくわからなくて猿飛さんを見つめてみます。
はい、見るからに呆れておられますね。猿飛さんは表情に出やすい忍さんのようです。
「アンタに忍についてとやかく言われたくないね」
「あ、読心術ですか。凄いです、さすがです」
「…全部声に出てたよ」
「…」
ふむ、人と話さない日々を過ごしすぎたせいですかね。独り言が増えてしまって、参っちゃいます。
「……はぁ。もういいよ、疲れる」
「申し訳ありません。ところでこの毒、どうすればいいのでしょう?」
やはりまだ死にたくはありませんので。
猿飛さんは渋い顔をしたあと、「少し上向いて」とおっしゃられました。
私は言われたとおりに従います。白い天井さんとにらめっこしていますと、首に指が這う感覚に身体が震えてしまいました。
おお、くすぐったい。
「あ、一応感覚あるんだ」
「私もこう見えて人間ですから」
「ま、見たまんまだけどねー…っと。少し我慢しててね?」
はい?
私はそう聞き返す前に、私の意思に関係なく先ほどよりも大きく身体が震えました。
「っ…」
猿飛さんが、く、食いついています。私の首に!
というか吸い付いています…ああ、わかりました。毒を吸い出すとかいうあれですね。私としたことが、実に原始的で驚いてしまいましたよ。
猿飛さんは傷口に舌を這わせて、水音を立てながら何度も吸いつきます。
最初は少しだけ傷口が痛んだのですが、そこはだんだんと熱くなって。
猿飛さんの唇が押し付けられるたびに、意識が朦朧とするような感覚に襲われるのです。
私はその何とも言えない感覚に堪えることしかできません。
「あの…」
「…何」
「まだですか…」
「あーうん。まあこんなもんかな」
私は猿飛さんの唇から解放されます。なんだか傷口が先ほどよりも疼く気がしますが…ってあれ?
「猿飛さん、猿飛さん」
「何?」
「吸い出した毒、吐かないと猿飛さんが死んじゃいますよ」
私そんなの嫌ですよ。
そう言うと、猿飛さんはくつくつと笑い始めました。どうしましょう、毒が回り始めでもしたのでしょうか。
猿飛さんが笑いをこらえながら、震える指で私の傷口にそっと触れました。
「大丈夫だよ、毒なんて回ってないから」
「ああ、忍さんは毒にも耐性がおありで」
「…そうじゃなくて。最初から毒なんて塗ってなかったから」
死なないよ、よかったね
そう言って笑う猿飛さんは、とっても輝いていました。
『悪戯』
(どうしましょう。)
(腹立たしいのなんて、久しぶりです)
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