猿飛

□気づけた
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........




「平成…?」


「はい、平成です。」


戦国時代は500年も前の話ですよ。


そう付け加えて言うと、男の方は酷く驚いているようでした。(実際には見えないのですが、空気でなんとなく)

この間に私が、「こういった展開を知っている気がする」そんなふうに頭を悩ませていますと、喉元に当てられた冷たい何かがスッと離れました。
それからズシリとした重みが消え、退いてくれたのだと理解をします。


どういうわけだかわかりませんが、助かりました。


私はすっかり固くなった腰に力を入れ、よいしょと身体を持ち上げました。



「アンタ、嘘なんかついてたら承知しないよ」


「私が嘘をついたところで、何のメリットも無いと思うのですが…」


「…めりっと?」



何ソレ、南蛮語?と疑問を投げかけられましても。意思疎通が難しいですねー。

しかし参りました、やはり私この展開を知っているようです。


私の頭の中でちらちらと伺えたある単語が、鮮明な形を持って脳を駆けてきました。




「逆…トリップ」


「は?」


「すみません、失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか?」

「どこの間者かわかんない人間に、名乗る名は無い」


「はぁ…そうですか」



では、失礼します

私はそう言って振り向きました。そして、ああやっぱりと声が漏れてしまいました。


夕日色の髪と迷彩柄のポンチョ

それから、緑のフェイスペイント。



私はこの顔をよく知っていました。




「猿飛…佐助」



私はその名を呟いて、そしてすぐに後悔することになります。




グイ



「っ…い」


「…なんで名前、知ってんの」


「それ、は」



ゲームの登場人物だから

そう言いたかったけれど壁に押し付けられた上に、クナイを喉元に突き付けられているものだから上手く言葉を紡げません。

さっきの『冷たい何か』の正体がわかってしまいました、いやはや物騒。


下手なことを言えば本当に首が跳んでっちゃうんでしょうね。

先程より強く当てられた部位から熱い何かが染み出すことで、嫌でもわかってしまいました。



「あ、なたは…異世界から来たものだと思います…」


「…」


「猿飛さんは、私の良く知る歴史上に現れる忍さん…で。だから名前がわかりました…」


「…」



返事がない。どうやら屍のようです…いや冗談ですって。

私がいらぬことを考えているのがわかったのか、物凄く睨まれてしまいました。怖いです。



「証拠は?」


「証拠ですか…。ならゲームを見れば…」


「げーむ?」


「ええ。見てみますか?」



少し考えてから猿飛さんはコクリと頷くと、クナイを引っ込めてくださいました。

私はずっと当てられていたところを恐る恐る指で撫でてみます。


ああ、やっぱり。


少量の血液が付着するのを確認し、思わずため息が出てしまいました。


痛くはありませんが、どうしてでしょうね。

少しだけ胸が、痛むのです。






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