Book

□雨の中
1ページ/1ページ

 「なにかあったんですか先生」
 「おー、久しぶりだのぉミナト」

 緊急だっていうから急いで駆け付けると、呼び出した張本人の自来也先生は甘味屋に居た。団子片手にちょいちょいと呼ばれたオレは、そののんびりとした様子に首を傾げながらも隣に座る。

 話を聞くと、先生がオレを呼んだのは事件があった訳でも問題が起こった訳でもなく、ただ顔が見たくなったからという単純な理由だった。

 「普通に呼んで下さればいいのに」
 「それじゃお前は来んじゃろう」

 口を尖らせる先生に、オレは苦笑しながら注文した団子を口に入れる。この間忙しくてすっぽかしたことをちゃんと覚えているみたいだ。

 先生とはなかなか会えないから話が出来るのは嬉しいのだけれど…。あの子、今頃なにしてるかな。

 家に一人残してきてしまった女の子のことを考えながら、オレは先生の旅の話を聞いていた。

 先生の話はなかなか終わらず、ようやく家に戻って来れたのはあれから数時間が経過した頃。もう既に太陽は沈み、家の中は真っ暗になっていた。

 「ただいまー」

 一応声をかけてみるが、リビングの明かりは点いていなかった。でも人の気配を、あの子の気配を感じる。

 明かりも点けずになにやってるんだろう?不思議に思いながらもリビングの扉を開くと彼女の姿が見えた。机に突っ伏して小さく寝息をたてている。

 「今度こそ寝ちゃったんだ」

 きっと、とても疲れていたに違いない。着ていた忍装束にあのリュックからして、ちょうど任務帰りだったのだろう。

 オレが気分転換で散歩をしているときに出会ったこの子は、静かな森の中で一人ぽつんと立っていた。それもわざと雨に濡れるように。

 話は後でと自分から言ってしまったし、自来也先生の呼び出しで話を聞く機会を逃してしまったから理由はまだ分からない。

 そっと顔にかかっていた髪を退けると、まだ少しあどけない顔が覗いた。初めて視線が交差した時の、涙で濡れた瞳を思い出す。

 あの悲しげで不安に揺れる瞳を見た瞬間、何も考えずに自分の傘の中にこの子を入れていた。オレにはあのまま放っておくことなど出来そうになかったから。
 
 「おやすみ」

 理由は今度ゆっくり聞こう。
 
 起こさないように抱きあげベッドに寝かしてくると、オレはまず洗濯に取りかかった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ