没ネタ 二次創作

□幻想古書店で珈琲を
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司、コバルトの正体を知る 1

 異界と思われる場所で魔力の使い過ぎで気を失った(or動けなくなった)亜門を抱えて、暗闇の中を右も左も分からず三谷と共に、唯一の助け人となりそうなコバルトの居場所を探す司。

「コバルトさんって、本名は?」
「え?」
「コバルトって名前普通すぎると思う。俺はそんなの精霊も悪魔も聞いたことないし」
「悪魔って・・・」

確かに亜門は悪魔のアモンだ。そのアモンの友人となれば、人間でないことはおおいにあり得る。何よりコバルトに初めて会ったとき、亜門自身「同じ魔法使い」だと答えていた。あの時は亜門の正体を全く知らなかったので、その時の「魔法使い」が三谷の言うとおり悪魔を指す言葉だったという可能性を捨てきることはできない。だがコバルトの本名も正体も今の今まで知る機会はなかった。急に言われても分からない。私は三谷にその事を端的に伝える。

「何でもいいから!例えばコバルトさんの特技とか好きなものとか、あるいは亜門さんがコバルトさんに対して別の呼び方したとか」
「好きなものは薔薇かな?前に亜門が言ってたし、コバルトさん自身いつも薔薇の香水つけてるみたいだし。そう言えば前に、亜門がコバルトさんのことを“高き館の王”って言ってたような」

三谷はそれを聞くと、普段の愛想のない顔が驚きの顔へと変わる。

「コバルトさんが“高き館の王”・・・なるほど、道理で青い色してるのか」
「へ、青色?“高き館の王”とコバルトさんの青い色と、どういう関係があるんだ」
「説明は後。とにかく亜門さんをコバルトさんの所へ運ぼう。コバルトさんと亜門さんは親しい仲なんだろ?そこなら安全だろうから」
「安全?まあ、確かになんとかしてくれそうだけど・・・。どうやって、コバルトさんを見つけるんだ?こんな暗いところじゃ、どこがどこだか見えないしお化けや幽霊や、それこそ悪魔なんかに会ったら・・・。」

いくら亜門がフクロウの姿をした異形だと知っていても、やはり得体のしれないものは怖い。亜門は例えその正体が悪魔であっても、信頼できる者だと理解しているが、他の悪魔や精霊たちが伝承通りの恐ろしいもの達でないと断言できないのだ。

「悪魔に会えたらそれこそ好都合じゃないか。亜門さんのことを絶対知ってるし、助けてくれる人だっているかもしれない。なによりコバルトさんの居場所を知らないやつなんていないだろうしね」

亜門と読書トークしている時の如く、異形の存在に出会えるかもしれないことに目がイキイキしている友人の表情を、気が付かなかったことにしようと決めた私は、未だに目を覚まさない亜門の肩をそっと持ち直してゆっくりと前に進む。


 相も変わらず一寸先は闇だらけで、こちらの事を唯一知っていそうな亜門は気を失ったまま。怖がりで亜門を抱えて身動きが遅い私に代わって、何が出てきてもある程度の態勢と対象方法を知っているであろうと言うことで、司の先頭を行く三谷の前に一つの関門が立ちふさがる。
薄らとだが明らかに人とは異なる形をした、黒い異形が1匹こちらに気付いて近づいてきたのだ。私は亜門を抱えていなければ、悲鳴を上げて逃げていただろう。先頭を行く三谷の顔にも緊張が走る。後ろで怖気ついて闇に紛れて逃げよう、という私の声を無視した三谷が取った行動は驚くべきものであった。あろうことか、自分たちに近づいてくる異形に対して声をかけたのだ。

「すいません。“高き館の王”の屋敷の道をお尋ねしたいのですが。」
「お前人間か?人間ごときがなぜここにいる?あの方に何用」
「召喚状をいただいたんです」
「召喚状?俺をだまそうと言うのか、人間ごときが!あの方が人間なぞに用など」

三谷はまくし立てるように話す異形に対して、無言でポケットから取り出した古びた封筒を一瞬だけ相手に見せて、話の先を促す。

「知っているなら教えてください、急いでいるんです。あの方をお待たせするわけにはいかないので」

ただ静かに発せられたその言葉は、なぜだが相手を威嚇するような雰囲気を醸し出していた。
封筒を見てから、なぜだか急におとなしくなった異形は“高き館の王”の屋敷への行き方を教えると、ささくそと目の前から消えてしまった。


「三谷、あの封筒どこから持って来たんだよ?」
「ああ、あれ?実は今日バイト先の先輩に本の注文リスト出しとけって言われてたんだけど、直接こっちに来たからポストに出し忘れただけ。サイズ的に小さくて薄いし、この暗がりだから全部見せなくても、一瞬だけ相手に見せたらそれっぽく見えるかなと思って」
「・・・。じゃあ、召喚状って言葉は・・・」
「名取この前俺に言ってたじゃん。コバルトさんから来た、亜門さん宛てに届いた茶会への召喚状のこと」

人外の存在に怯えもせずああも簡単にだました上、さっさと必要な情報を聞き出した友人の姿を見た司は、最早絶句して何も言えずに押し黙るよりほかはなかった。

(僕が“止まり木”働くより、三谷がいた方が亜門も喜ぶんじゃないだろうか)

先ほどのやり取りと言い、今までの数々のアドバイスや亜門との趣味の一致と言い、自分よりこの友人の方が亜門のそばで働いてる方がいいのではないだろうか
最近は鳴りを潜めていたネガティブな考えが、司の頭に過る。
それから何度か同じように人ならざる異形に遭遇するも、先頭を歩く三谷が同じことを繰り返してやり過ごし私たちは先に進んだ。
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