ぶん★
□ふしんしゃ (完)
1ページ/1ページ
放課後の廊下。
夏目は歩くたびに色素の薄い髪をふわふわさせながら、ひとりで忘れ物を取りに教室へむかっていた。
今年も残りわずかとなった12月の末。学習まとめに使用するノートは、通学カバンに入れられることなく、机の中にひっそりとその身を置いているはずだ。
担任に借りた教室の鍵を開け、静かにスライドさせると、夏目は自分以外の人間の気配に驚いた。
自分の席に、黒い布をまとった黒髪の人物が静かに陣取っている。
「ーー、なに、してるんですか。」
驚愕しつつ絞りだした声に、人間は口元を釣り上げながらこちらを見た。
「あなたの全てが知りたくて。」
そう、悪びれもなく言い切った黒は、夏目の姿が視界にはいった現状に歓喜する。
日が傾きだした薄暗い教室に、人間の影は二つだけ。
その空間は、この時だけ、確かに二人だけの世界だった。