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『俺…骸が好きなんだ』

絶対に口にしてはいけないと、心に決めていた事なのに…。
出会ってからずっと、馬鹿みたいに願っては諦めてきた想いをあんな形でぶちまけてしまった。

「う〜…、俺、馬鹿じゃん!!何やってんだよ!!」

骸に好きな人がいる。
その人に想いを告げる。

そう告げられて頭が真っ白になってしまった。

「もう、会えないよなぁ。きっと骸だって会いたくないだろうし」

誰も聞いていないような独り言を自室のベットに潜りながら呟く。

とんでもない事をしてしまった。
想いを告げただけでも嫌悪感を抱いたかもしれないのに。

「キスとか…ははは…笑えないよなぁ…やっぱ」

骸を押し倒し、ぶつけるだけのキスをした。
じゅんわりと視界が滲み、琥珀の瞳からはポタポタと塩辛い水が流れる。

骸のあの表情は軽蔑だったのかもしれないと思うと胸が痛くて、苦しくて、いっそこんな心臓止まってしまえばいいのにと思う。
そうしたらこんなに苦しい事などなくなるのだろうか?
骸を好きだという事実も消せるだろうか?

布団の中で芋虫のようにくるまっていた綱吉は、携帯の着信履歴をボンヤリみながら溜め息を吐き出した。

着信38件。着信履歴六道骸。

「出れるわけないじゃん…」

電話に出てしまったら全てが終わる気がした。
いや、もう終わっているのかもしれない。
だけどその事実を突き付けられるのが怖い。
好きな人に告白に行くと決心した友人を、押し倒して口付けをするなど冗談でも笑えない。
ましてや同性同士で。

(怒ってんだろうなぁ…骸)

一瞬見せた切なく寂しそうな表情は、好きな人を想って自然に出てしまった表情なのだろう。

あんな顔、見たことがない。

いつも強気で、自信家で、意地悪で…沢山の表情を見てきたけれど、誰かを想い、苦しそうに、切なそうに、愛しそうに眉を寄せる骸なんか知らない。
知りたくもなかった。

(よっぽど大切な人、なんだよな…きっと)

携帯を閉じて、手に握ったまま寝返りをうった。

(携帯…骸とお揃いなんだよなぁ。機種変した方がいいのかなぁ?やっぱり)

まだ早いんじゃないの?と眉を寄せる両親に泣きついて買った携帯電話。
隣町の骸を近くに感じたくて、少しでも繋がっていたくて…携帯を既に持っていた骸の真似をした。
機械オンチだし骸に選んで欲しい、なんて言い訳をして一緒に機種を選んだ。

(一緒にいたかったんだよなぁ…俺。)

ただ側にいて。
ただ笑って。
くだらない日常の話をして。
それで良かったじゃないか?

欲は知らない間に成長するものなんだ、と気づいた時にはもう遅くて。

骸とお揃いにした携帯電話。
あの時骸は「君は、絶対覚えられないんですから…僕と同じでいいんじゃないんですか?分からなくなったら僕が教えればいい話しですからね」と笑っていた。

教えて欲しい。今すぐに。
着信拒否までしたのに、それでも消せないアドレスをどうしたらいいのか。

あの日、慌てて骸から逃げるようにアドレスを変えた。
呆然としていた骸が正気に戻って「気持ち悪い。最悪です。僕は君など好きじゃない。」と言い出す前に携帯アドレスを変更したのだ。
その後から連続で骸から着信がひっきりなしに掛かってきた為、蒼白になりながら分厚い説明書を捲り、着信拒否を設定した。
面倒臭い事を嫌う怠け者の綱吉には驚くべき行動力だった。
それなのに、骸のアドレスを消す事が出来ない自分に苦笑いしか出てこない。
なんて諦めの悪い男なんだと心底思う。

あの日から三週間。

こんなに長い時間、骸に会わないのは始めてだ。

好きな人には告白はできたのだろうか?
自分との口付けの後で、それを無かった事にして想いを告げたのだろうか?
あの日から三週間も経つのだから、告白はしているんだろうと思うけど。
どんな子なんだろう?
あの六道骸を袖にする女性などいないだろう。

赤と青の美しい瞳で、誰を見ていたんだろう?
気づかなかった。
そんな人が骸にいた事に。
あれだけ側にいて、何一つ。


「あぁ…やっぱ俺、かくれんぼ得意じゃんか」


探してくれる人などもういない。
こんな自分を見つけてくれる人なんて…きっと。










「何甘い事言ってるんですか?ムカつきますね。本当に」








一瞬、頭の回路が切れたかと思った。
何度も脳内再生を繰り返した男の声がする。
脳内再生していた声と比べて、大分不機嫌さが滲み出ているが。

(いやいやいやいやいや!!あり得ない、あり得ない、あり得ないだろ!!!)

布団をより強くにぎって、これは悪い夢だ!よし!寝よう!!と丸まったその時、布団が宙を舞った。


「な、は、ちょっと!」
「煩い」

ベットのすぐ脇に立っている見慣れた深緑の制服。

凍てつくように見下した、赤と青の瞳がギロリと睨んでくる。

(こ、こえぇぇぇぇぇ!!!)

その表情の恐ろしい事といったらない。
元々日本人離れした、美しく整った顔が歪んでいる。
般若なんて目ではない。
悪魔?いや、もう死神にすら見える。

「む、むくろ?」
「えぇ…君が散々逃げ回っている、六道骸ですよ」

鼻を鳴らして皮肉たらたらに笑う姿が非常に怖い。
どうやら怒り心頭の様だ。

「や、ってか…どっから入ったの?ここ二階だぞ?」

一階には母親がいる。
その母親には、骸が来ても綱吉はいないと言ってくれと散々頼んだのである。
母親も必死でそんな事を頼む息子に呆れながら、早く仲直りしなさいね。と苦笑いしながら承諾してくれた。

第一、訪ねて来たのならチャイムの一つくらい鳴っても良さそうだが。

「あぁ…そこからですけど」
「へっ…あぁ、そこ?………………窓じゃん!!」

綱吉を睨み付けたままの骸が指さした場所を目線だけで追うが、まさかの不法侵入に盛大に突っ込んでしまった。

綱吉は慌てて口を押さえるが、もう怖すぎて仕方ない。

「はぁ?そうですよ?窓ですね。仕方ないと思いますけど?あれだけ散々僕を避けていれば、君の事だ。母親に頼んで居留守するつもりですよね?」

「よ、良くおわかりで…」

元々自分の考えや行動は、全て骸に見抜かれていたのをやっと今になって思い出した。


腕組みをしながら不機嫌丸出しに睨んでいる骸から、どうにか逃げたしたい。
せっかく今まで上手く逃げて来たのに台無しだ。

学校帰りも、街中を歩く時も、友人を壁にして何とか見つからずに過ごしてきたのに。

真っ正面からこの男と向き合うのは、色々な意味で心臓に悪い。
悪すぎる。

「で?僕が納得できる答えを出せそうですか?」

「は…えっと…何について?」

「君のヤリ逃げについてですよ」

「や…りにげ?」

キョトンしたまま首を傾げると、目の前の男が舌打ちしたので、綱吉の顔は青く染まり、その直後真っ赤に染まった。
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