□変装には気を付けて
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何で?どうして?こうなった?

「どうしました?」
「…ふ、ふふふ。ううん?何でもないわ。六道さん」

可愛らしいファンシーな店で、にこにこしている六道骸を、ぶん殴ってやりたい。

「おや?食べないのですか?」
「え、えぇ。私、お腹いっぱいで…」

「なら…そろそろ行きましょうか?それに、どうせならもっといい事を楽しみたいですからね」
「い、いい事ですの?」

「おや?お嫌いですか?」

「き、嫌いと言うか…私達会ったばかりですし…」
「クフフ、可愛らしいですね?こういう事は、会った回数ではありません。僕が君をどれだけ求めているか、ですよ?」

誰ですか?この人?
俺にそんな事言った事ないですよね?!

「で、でも。お、お付き合いしてる方はいらっしゃらないの?」

ここで止まれば、許してやる。いや、許さないけど許してやる。
凍らすぐらいで…

「おや?」

おや?じゃねーよ!!
いるだろーが!と怒鳴りたい気持ちを押し殺しながら、機嫌良さげの骸を睨み付けた。
赤と青のオッドアイをぱちりと瞬かせた骸は、口角を持ち上げてゆるりと笑う。

「…そうですね。でも、今は貴女の魅力に負けてしまう。」

「………そんな、お上手」

はぁぁぁぁ!?何だ!コイツ!!ふざけんな!!付き合ってるだろ!!俺と!!はぁ?そうですか?今、お前が口説いてる女は俺ですけど!?キザ!!たらし!!ふざけんな!!浮気者!!

「奈津さん?」
「ううん!!なら…六道さんのお家に行きたいわ」

「おや?僕の家にですか?貴女には似合わない場所ですよ?」
「…えぇ、いいの。六道さんの全てを受け入れたいの」

「クフフ…積極的ですね?では、仰せのままに。お姫様」

殺す。

ニッコリ微笑むが、顔が固まって笑顔がひきつっているに違いない。

「では、行きましょうか?」
「…はい。六道さん」

馴れないヒールを引きずりながら、差し出された掌に手を重ねる。


何で?どうして?こうなった?






そう、始まりはリボーン様の悪ふざけからだった。
空腹を満たそうと、台所のドアを開けるとそこは、カオスな空間でした。

「ちゃおっす。ツナ」
「…ちゃおっす。リボーン様。いやいや…何してんの?いや、まじで?」

フリル全開の白いワンピースを身につけて、腰まである茶色い巻き髪を揺らしている家庭教師様に度肝を抜いた。

「何だ?ツナ。惚れたか?トキメイたか?んっ?」
「惚れないよ!!ある意味心臓止まるかと思いましたがねっ!!」

「あ〜ら〜いやだぁ」
「俺がヤダよ!何なの!?何したいの!?ってか、突っ込まなきゃだめですか!?」

しなを作るリボーン様に、もうどうでも良くなる。
いちいち気にしてたら、ダメだ。自分がダメになる。

「はぁぁぁ…まぁ、いいや。じゃあ、行くから。それ気持ち悪いから早く止めろよ?まった「あ〜ら〜いやだぁ」


「んばぁっっ!!」

ビンタが飛んできて、そのまま後ろにぶっ飛んだ。
ヒリヒリなんてもんじゃない。
何か手に仕込んでませんか?ぐらいの威力に目の前が白くなる。

「な、な、な、な、何するんだよ!!俺、殴られること「あ〜ら〜いやだぁ」

「んがぁぁぁ!痛い!痛い!往復ビンタは止めて!」

胸ぐらを掴んだ、愛くるしい黒豆はつけ睫をバシバシと瞬かせている。
怖い!怖い!怖いし、痛い!

「あ〜ら〜いや「嫌なのは俺だよ!!ってか、それ何!?流行ってんの!?流行ってんの!?あ〜ら〜いやだぁ流行ってんの!?」

赤くなった両頬を擦りながら涙目で抗議をすると、ふわりとスカートを翻した先生様がポーズをとる。

なに?もう?どうしろと?

「どうだ?ツナ?そそるだろ?」
「そそらないよ!!お前は俺をどうしたいんだよ!?」

泣ける。意味が分からなすぎて泣ける。もう、通訳が欲しいぐらいです。

「まぁ、そういう訳だ。ツナ「えっ?どういう訳?説明とかありました!?」

にやりと笑いながら、鏡にウインクしてるリボーン様が意味のわからない事を仰られている。
どうしよう。逃げていいだろうか?

「ダメだぞ「うぉ!エスパー!!こわっ!!」

ヒラリとスカートを揺らしながら、パチンと指を鳴らすと、ガラリとドアが開き、化粧品をこぞりと持ったビアンキが出てきた。

「あーん!リボーン!!可愛い!!」
ダッシュで、リボーンを抱き締めながらギュウギュウと頬擦りする姿を呆然と眺める。
プクプク頬っぺをムギュムギュされながらも表情を崩さない世界一のヒットマンは、話を続ける。

「オメェも、ちょっと女装してナンパでもされてこい」
「うん、ごめん。さらっと恐ろしい事が聞こえましたが、空耳と信じたい」

「オメェも、ちょっと女装してナンパ「聞いたよ!!同じ事繰り返すなよ!!空耳じゃないですね!!ってか、お断りだよっ!!」

何故女装なんかして、ナンパなどされなきゃいけないのだ。

「オメェ…よく考えろ。いいか、オメェは確かにボスとして頂点に立つ立場だ。だが、変装する能力を身につける事は大切な事なんだぞ」

ふと、黒豆が鈍く光るのに生唾を飲む。
急に真面目に話し出したリボーンにたじろぐ。

「だからって…」

「オメェが無能なら無能なだけ、オメェの為に犠牲になるファミリーが出るんだぞ」

その言葉に心臓が大きく跳ねる。自分の為に人が傷つき、涙を流し、人生を狂わすなど考えたくない。
それは、ダメな自分がいつも誰かの血の上に助けられている事を理解しているからだ。
自分の近くにいる人ほど、大切にしたい人達なのに。

「変装して姿を眩ます必要が出てくる時があるかもしれねー、自らが動かねーといけねぇ時がある。いいか?オメェが出来ねぇ事が増える度、オメェの守護者達がオメェの代わりに危険を受け持つんだぞ」

「…そ、そんな事」

「まぁ、変装なら…霧。六道骸だ」
「えっ…?」

突然、六道骸の名前を出されてまた心臓が跳ねる。
霧の守護者である六道骸は、一度は敵対した相手で、暗い過去からマフィアを憎んでいる。
そんな骸が、今マフィアのボスを護る霧の守護者をしているのは、仲間の身の保証と恋人である沢田綱吉の為なのだ。恋人である沢田綱吉が、憎むべきマフィアのボスなのだから彼の葛藤は相当なものだろう。それでも、何だかんだで自分に力を貸してくれる。
そんな骸を危険になど晒したくない。

「幻術を得意とする骸には、人を騙す能力が飛び抜けてるんだぞ。他の守護者よりな。」

「そ、そんな」
「それにアイツは口もたつ。冷静に物を観察する、内部から壊滅させるにはアイツ以外の適任はいねーからな」

「や、やるよ!お、俺が出来ればいいんだろっ!」

だからって何で女装なのだろう?とは思うが、骸の名前を出されたらそんな事構っていられない。

「女装が一番簡単なんだよ。テメェはママンに似て可愛い顔してんだ。まー!!くやしいわっ!!」
「…お前、もうギャグか本気か怪しくなってきてるよ?」

「まぁ、ナンパはオメェが女にちゃんと見えたという証拠だってことだ。つまり、ちゃんと出来てるって事だぞ」

「あぁ…そういう事…」

なるほど。それなら、リボーンが言ってる意味が全く理解出来ない訳じゃない。
なんにせよ、世界一のヒットマンで家庭教師様の言うことだ。



「…まぁ、俺が楽しいだけだけどな★」
「台無しだよ!!一瞬納得したよ!!「と、いう訳だ。さっさと準備しやがれ」

「どこまで?どこまでがお前の楽しみなの!?ちょっ!や、やめろって!!リ、リボーーーーーーーーーン!!!!」


沢田家に悲鳴が響き渡る。


******

「ま、まじかよ…これ」

鏡に映るのは、正しく女の子。始めまして!新しい俺!と声をかけたい。

ビアンキに化粧を施され、眉毛を整え、ロングヘアーのカツラをかぶり、ハーフアップにセットして薔薇のモチーフの髪飾りをつけた。
下着なんかどこで用意したのか、寧ろいつから企んでいたのか女性用のブラジャーと下着を用意されていたけど…逃げに逃げ、銃を突き付けられ、ポイズンクッキングを口に入れられながらそれでも拒否して、なんとかブラジャーだけで勘弁して頂いた。
そこにギュウギュウと詰め物を入れられた。
今の詰め物ってすごいなぁと遠い目で苦笑いを浮かべる。
なにこれ?スライムじゃん?的な物は胸でぷるんと揺れている。

白いフリルのブラウスに、薄い茶色のボーダーカーディガンを羽織、身体のラインを隠す為に長めのパステルピンクのスカートを履き、腰には細目のベルトを二重に緩く巻く。

腰が華奢に見えるそうです。
どーでもいいわ。そんな事。

ストッキングを履き、7センチヒールを履く。
性別を間違えて生まれてきてしまったのかと思うほどハマっている自分に顔がひきつった。

似合っていようが、男の俺が悲鳴をあげて首を横に振る。
これで外に出るとか有り得ないと、リボーンに訴えてみたが放り出されてしまった。

「ナンパとかぁ、誰にもされないとかぁ、まじ有り得ないんですけど〜って事で何もなければ、ネッチョリ、グッチょリお仕置きだぞ。証拠として相手の番号GETだぜ★」

「某アニメみたいに簡単に言うなよ!!GETって!!」

「あ〜ら〜いやだぁ「それもういいよ!!!!」

「うるせぇ。早く行きやがれ!!!」

「ひっ!!お、鬼!!!」

銃を乱射されて、慌てて走り出した。
あぁ…もう!!
どうか誰にも会いませんように。

そう願いながら、身を隠すように街の中をドホトボと歩く。
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