□ボンゴレ最強伝説
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好きな人には、触れてみたいと思うのが人間の心理ではないだろうかと思う。
だって、好きなんだから。
相手の事を深く知りたいと欲だって出る。
相手の肌の感じとか、温かさとか、鼓動とか、香りとか…そんな些細な全てに手を伸ばしてみたくなる。
想いが絡み合って、相手も同じ気持ちだと知った時はそれだけで良かった。
自分が想うように、相手も自分を想ってるのだとくすぐったい気分になった。
それだけでお腹は満腹だったし、終始口元が緩み、この世で一番の幸せ者は自分だと思うほどだったのだ。
それだけで良かった。良かった筈なのだ。


それなのに…

「はぁぁ」
盛大に溜め息を吐いて、また大きく息を吸った。
その隣でこれまた盛大に眉を上げた獄寺隼人は、溜め息の主の顔を覗き込んだ。

「ど、どうしたんです!?ご気分でも悪いんですか!?」
「へっ?あぁ、違うよ!!ごめんね?心配かけて…」

溜め息の主、沢田綱吉は首を大きく振りながらへらりと笑う。

「なら…いいっすけど…何か元気ないっすね?」
「へっ?そ、そうかな?全然元気だから大丈夫、大丈夫、へへへ。それより、獄寺君ジュースおかわりは?」
「あっ!頂きます!くぅぅ!流石10代目!!素晴らしい味わいです!」
「そ、そう…ただのコーラだけどね」
「いやいや、何を仰いますやら、これはもう黒い宝石っす!」
「うん。獄寺君ならコーラ大使とかいけそうだよね!!」

自分が用意した、変わり映えのないスナック菓子と炭酸飲料を嬉しそうに胃袋に納めていく獄寺を見ていると、自分の想い人はなんて自分に冷たいのだろうと感じてしまう。

想い人。

いや、恋人と呼ぶべきなのだろうか。
霧の守護者である六道骸が、自分を好きだと言ったのは半年前。
まさか、マフィア嫌いを公言している骸がボンゴレボス10代目である自分に好意を寄せているなど思いもよらず、想いを告げられた時には世界が真っ白に染まるほど驚いた。
真っ白で、真っ白で、だって俺京子ちゃんが好きだったわけで…女の子が好きなわけで…性別も男なわけで…わけでだらけの中、コクりと頷いていたのには自分でも驚いた。
あの仏頂面の骸がほんの少しだけ、情けない顔になったのを俺は知ってるわけで。
骸を知れば知るほど、考えれば考えるほど自分は知らないうちに骸に惹かれていたのだと気付いてしまった。
自分の気持ちを認めてしまえば、胸につっかえていた何かが腹に落ちてきたように思えた。

あぁ、俺は骸を確かに好きなんだと。

「…め…だ…め…10代目!!」
「う!わぁぁあ、びっくりしたぁ!な、何?」
「いや…あの…、俺そろそろ失礼します。ご夕飯までご馳走になるのも悪いっすから」
「え、あ、うん。ごめんね…何か」

最近ぼんやり考え事をする時間が増えた。
だからといって、友人を蔑ろにしていいわけじゃない。
獄寺に申し訳なさそうに眉を下げ、素直に詫びる。

「いや、いいんですが…本当に大丈夫なんすか?俺で良ければ話いくらでも聞きますよ」
俺は右腕なんすから!と照れながら笑う姿を見ると、泣き出してしまいそうだ。

骸との関係は秘密。
最強で、ある意味最凶の赤ちゃん姿の家庭教師含め、守護者メンバーには特に秘密だと骸が言った。
だから、胸のモヤモヤが誰にも吐き出せずに溜まりに溜まって溢れだしそうなのだ。

(秘密って言うなら、お前がモヤモヤを解決してよ!ってか、原因はお前だし。守護者メンバー以外って俺友達いないんだからなっ!!)

心で盛大に文句を吐き出した後、ふと重要な事を言わなきゃいいんじゃない?と考え綱吉は言葉を投げ掛ける。


「あ、あのさ、獄寺君」
「は、はい!なんっすか?」

意を決したような綱吉の様子に、獄寺も緊張したように背筋を伸ばす。





「す、好きな人には触れたいとか…あの、思うよね?」









「はい!!もちろ……………はぃ?」


勢いよく返事を返したはいいが、言葉を飲み込むうちにあれ?聞き間違い?と思ってしまう内容の質問に思わず聞き直してしまった。

だって、質問した相手があの沢田綱吉なのだ。

「あの、じゅ、10代目?今なんて?」

もはや獄寺の頭はパニックである。
幼い顔つきで、男にとっては誉め言葉ではないであろう可愛らしいという言葉が大変似合う綱吉が、顔を真っ赤に染めながら見上げてくるのだから堪ったもんじゃない。


「だからね、あの、自分の好きな相手なら触れたいとか…だ、抱き締めたいとか、キ、キ、キ、キスしたいとかぁぁぁぁ!!」
「10代目!10代目!!息、息をして下さい!!!」

口にしたら恥ずかしいやら、なんやらで酸欠状態で叫ぶ始末。
綱吉の頭もパニックである。


「あ、あ、あ、あのさぁぁぁぁぁぁぉそれ以上のおぉぉぉぉ「ちょ、わ、分かりました!分かりました!10代目!!とりあえず話を、まとめましょう!ねっ!ねっ!大丈夫っすからぁぁぁぁぁ!!」

「うるせぇぞ!ガキ共!!」

真っ赤に染まった顔で、向き合ったまま叫び続ける二人の男の声を遮るようにズギャンと愛用の拳銃片手にドアを突き破ったのは「リ、リボーンさん!」「ふぇ!リボーン!?」

「ちゃおっす☆」

まん丸お目めのプリティーベビーの家庭教師がほっぺを揺らして立っている。

「まったく、ちったぁ勉強でもしてると思って用を済ませてくりゃぁ、なに気持ちわりぃ事してんだ?あぁ?」

会話の流れから忘れてしまうが、本日いつものように学校が終わり山本、獄寺、綱吉の三人で下校した。
が、綱吉の元気がなかった為山本と別れた後無理矢理「明日のテストの山掛けしましょう」と獄寺が綱吉の家に乗り込んだのだ。
家庭教師のリボーンは、勉強をするのならばと用を済ませる為に家を出た。と、いうのに帰ってみれば半狂乱で真っ赤になった教え子は叫んでいるし、これまた真っ赤になった獄寺は大声でさながら救助訓練のような対応をしているしで…まぁ、愛用の銃をぶっ放つ事になったのだ。

「お前ら…俺が納得するように説明しろ。出来なきゃ、ねっちょりお仕置きだぞ」

「は、はい!!」

あの可愛らしい見た目から、何故そんなに黒いオーラが出せるのかと思いながら、二人は机に姿勢を正して座った。
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