□彼について答えるなら
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もし、今の彼を説明するなら「標的」「オモチャ」「憎むべきマフィアのボス」「甘い男」…それか「珍しい人間」。

彼の事を考えると、いつも最後は頭痛がしてくるので考えるのを止める。
止めようとするのだけど、瞼を閉じる度に浮かんでくるので頭痛が止むことはない。

(…目の前にいても、いなくても煩わしい男ですね)

舌打ちしたくなる。
今は誰も足を踏み入れない、廃墟となった黒曜ヘルシーランドの破れたカーテンから外を眺めた。

カーテンから漏れる優しい光。少し目線を上げれば真っ青な青空。
自分を照らす光に苛立ちが更に増すのは、あの光を思い出すから。
心地よく、淡い、慈しみある光。

(マフィアのくせに…あの甘さはどうにかならないものですかね…)

命を狙い、身体を乗っ取るつもりで近づいて…今は、その相手を守る守護者までしている自分に眉を寄せる。
自分が守護者になれば、同志の身柄は保証され沢田綱吉の近くに在る事が自然と出来る。

(まぁ…いつでも彼の身体を奪える位置は悪くない。悪くはないが…なんでしょうね…)

指に光る霧のリングを忌々しげに眺める。
忌々しいに他ならない、こんなリング。

(僕を何だと思っているのでしょう…)

チョコレートを溶かしたような大きな瞳。
幼さ残る丸い頬。
小さな唇に、少し高い声。
炎を纏う彼の眼差しは何処までも凛々しい。

あの瞳に自分が映る。
あの声が己を呼ぶ。
確かめたかった、あの光が…心地よいと感じたあの光がボンゴレの力によるものなのか?それとも、あの沢田綱吉の力なのか…

確かめて、気付いてしまった。
沢田綱吉は、自分にとって唯一無二の存在だと。
あんな人間見た事がない。
六道を何度巡ろうと、こんなに心乱される事などなかった。

深く溜め息を吐き出して、足を組み直す。
目線を移すと城島犬がバタバタと鞄を探っているのが目に留まった。

「何をしているのですか?煩いですよ。」

ガサガサと音をたてる犬を睨みつけて言うと、肩をビクリと上げて慌てて骸の顔を恐る恐る振り返る。

「む、骸しゃん!いたんれすか?」
「…居ましたよ。お前がバタバタし始める前からずっと」
「流石骸しゃん…気配を感じなかったれす」
「それは、犬の注意力が散漫しているからです」

自分も犬が部屋に入ってきた事は気付かなかったのだが、それはあえて言わない。
あの男を考えていたからだ、とは認めたくない。

「犬…用意した?早くしてよ、めんどいから」

ギィィとドアが開いて、細身の長身が顔を出す。

「柿ぴー!!」
「千種」

骸の顔を見て少し眉を上げる柿本千種は、やや驚いているようだ。

「いたんですか…?」
「まったく…、そんなに僕は存在感ないですかねぇ…犬といい、千種といい」
「そんな事はないですが…」
「まぁいいです。で…お前たちは何処に行くのです?」

気だるそうに指を組み、身体をソファーに預けながら呟く。

「あ、あのブス女が「ブス女?」

犬が慌てて口を開くが、ブス女の単語にギロリと犬を睨む。

「犬…ブス女とは?まさかクロームの事ではないですよね?」
「え、あ、あの違う!違うれす!!「なら、いいのですよ。」

にっこり笑う主に、犬はへらりと乾いた笑みを浮かべる。

「で?」
「なんか…あの女が麦チョコを食べたいって言いはじめてれすね…」
「ほぉ。クロームが?」
「…で、犬が並盛の駄菓子屋にクロームがよく食べてる麦チョコがあるっていうので…」
「な、柿ぴー!!違うびょん!麦チョコはついでにって言ってるらろ!!!」
「…何でもいいよ。めんど「お前たちは並盛町に行くのですか?」

並盛町。
あの男が住んでいる町。

ソファから立ち上がり、二人を眺めながら言う。

「分かりました。僕も行きましょう」

主の言葉に驚いた表情を浮かべながら、二人はとりあえず頷いた。
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