□夢の話をしようじゃないか。
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「なんですか?じろじろと…」

関わりたくはない、どころか、グチャグチャに壊滅してしまえばいいとさえ思うマフィアの部屋に敢えて来るのは…

「いや、夢を見たんだよ」

このマフィアらしくない男のせいだ。

茶色の癖毛が、窓から入ってきた風に踊っているのを見ると、どうしてか体の力が抜けていくような気がして苛つくのはいつもの事だった。
六道骸は舌打ちをして、不自然に窓を閉める。

「あっ!おい、閉めるなよ!せっかく風も暖かくなってきたんだから」

ぷくりと膨らんだ頬を見ると、ますます力が抜けていく感覚に眉を寄せた。
このまま彼、沢田綱吉を見続けるのは目の毒だと視線を無理矢理そらす。
視線を逸らしたのに関わらず、いまだにチクチク刺さる煩い視線。
先程からこの視線が煩くて煩くて、何だかムズムズする。
六道骸は眉を寄せたまま、ため息を吐き出した。
この視線に弱いのは昔からだ、と諦めの気持ちさえ出てくる。

守護者に与えられた任務の報告書は、任務を遂行した本人でなくてはならない。
それはボンゴレの決まりであり、綱吉の強い希望でもあった。
霧の守護者である彼―…六道骸はマフィア嫌いを理由に滅多にボンゴレの屋敷に訪れない。

多分、このような理由づけがなければ綱吉の部屋にすら現れないだろう。

それは『六道骸』を作り上げた過去のトラウマや憎しみが、今だに彼を苦しめている証拠なのだと綱吉は理解している。
理解してるうえで、それでも少し寂しいと感じてしまうのだ。

だって、やっぱり、なんだって、恋人には会いたい。

綱吉と骸は、何処をどう間違ったのか、それとも正しかったのか、長い年月の中で互いに恋い焦がれる仲となった。
恋人になった当初、沢田綱吉はなかなか会いに訪れない彼を不貞腐れた気分で待ちわびていた。
環境、遭遇、壮絶なトラウマ、それも全てひっくるめて理解してるつもりだった。
マフィアと言えど、恋の元では誰もが乙女思考なのだと、綱吉が某家庭教師様に泣きついたのも記憶に新しい。
その後、黒豆のような瞳で『死ネ』と言われたのは忘れたいのだけど。
しかし、憎しみの対象であるマフィアになった自分の側に変わらずにいる彼を見れば愛されているのは分かるのだ。
分かってはいるのだけど…報告書のついでに会うのでは、やはり切ない。
嬉しいと思うほど、やはり寂しいのだ。

そんな思いからか綱吉は骸の夢を見る事が度々あった。
夢で会うのはいつだって優しい骸で、憎たらしく罵りはしても最後には優しく微笑んでくれる。
夢に見た日は寝起き最高…なのだが、現実にいない彼を思って沈んでいく。
しかし、今日は少し変わった夢を見た。

それは酷く懐かしくて、少しだけ甘酸っぱい夢だった。

その夢は今望んでも、絶対に会うことが出来ない出会った頃の骸の夢だった。
そんな夢を見た日に、骸が報告書を持って現れたのだからついジロジロと眺めてしまう。

あぁ、あの時の骸はあんなにも幼かったのか―…と。


「…で、いったいどんな夢をみたんですか?」
「ん?知りたい?」
「いえ。別に」
「そこは知りたいって言えよ…話進まないだろ!」
「おや。そんなに話したいのなら、聞いてあげても構いませんよ。ほら、どうぞ」
「おい…会話が噛み合ってる風で噛み合ってないけど、そこはスルーなの?」
「で、何の夢だったんですか?」
「…お前、いい性格してんな」

視線を逸らしていた骸が、ブーツを鳴らしてソファに座る。
長い足を組みながら、決して視線を合わせないように頬杖をついた。

こういう所は本当に変わっていない。
まるでプライドの高い猫のようだ。

視線が合うのはほんの一瞬、次に合わせようとしてもなかなか此方を見てくれない。
綱吉は向かい合わせにソファに座ると、小さく笑う。

「骸の夢…」

そう言うと、ピクリと眉が動きチラリと視線が綱吉に戻る。
しかし綱吉は、夢を思い出すように目を閉じている為気づかない。
気づかないまま、ゆっくり笑う。

「…なるほど。で、僕は何をしていたんですか?君の夢で」

骸はぷいとまた視線を逸らし、少し困ったような怒っているような表情を浮かべる。
ぶっきらぼうの言い方の中に少しの戸惑い。
ここ最近は激務で夢を渡り歩く暇すらない。
つまりは完全なる綱吉の作りあげた六道骸。
恋人の夢に自分が出ているなど、自分の姿を寝る間際まで綱吉が考えているのだと告白しているようなものだ。
それを分かって言っているのだろうか?
なんて可愛らしく、なんていじらしい告白をしてくれるのだ!と怒鳴りたいのを堪えて、綱吉の名前を呼ぼうとすれば、次に訪れた言葉にこめかみがピクリと動いた。


「まぁ、骸と言っても今のお前じゃなくて昔のお前なんだけどさ」

「はっ?」

ポカンとした後、眉をぐぐっと寄せた骸が足を組み直した。

昔の自分がどうしたと?
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