□友達以上恋人未満?
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「…何か気合い入りすぎじゃない?」
「そうですか?…いつもと変わりませんけどね。」

憂鬱な気分のまま机に倒れていた綱吉はいつの間にか眠りこけており、気付けば食事会の30分前。
時計を見て、青ざめながら鏡の前でネクタイやらスーツを整えているとドアを叩く音が聞こえ、泣きたくなりながらドアを開けると六道骸が冷めた顔をして立っていた。

黒のロングコート、Tシャツにネクタイ、ブーツインは変わらないが…装飾品がまぁ。

シルバーの髪飾りには赤と黒の宝石が散りばめられ、指には太くも細くもない骸の指の為に作られたようなサイズの指輪。
ピアスはじゃらりとチェーンと、ダイヤ。

もう、何だ?誰が主役か分からないぐらいの目立ちっぷりに唖然とする。

「お前…なんかムキになってない?」
そう眉を寄せて尋ねると、ギロリと睨まれ息を飲み込む。
「いえ。別に。ただ、僕に好意を持ってくださるお嬢さんへの最低限の礼儀ですよ?」
「…そう」

骸の意識はもう、その娘にいっているのだろうか。
顔を逸らされ、胸が痛くなった。
慌てて下を向くが、下唇がビリビリする。

「時間ですよね?行きますよ」
「あ。…うん。そうだね。」

スタスタと先を歩く骸の後ろ姿を、下から窺うように眺める。
歩く度に揺れる長い髪がお気に入りだった。
軽くなびくコートを見るのが好きだった。
しゃんと伸びた背が大きく見えて、手を伸ばしたいと思った。


(これ…全部、あの子の物になるんだろうか?)

目を硬く瞑って、首を小さく振った。
トスンと、顔面が何かにぶつかり鼻が潰れるかと思うほどの痛みで涙目になる。
見上げると、シャープな顎のラインが目に入って心臓が跳ねた。
心臓が口から出るかと思った。

「…何してるんですか?君は」
「あ、あぁ、ごめん。」

骸の顔が近くて、宝石のようなオッドアイに自分が映っているのに目をパチリとする。

「…何です?変な顔をして。あぁ、君は元々変な顔「じゃねーから!」
「…早く乗ってくださいよ。」
「わ、わかってるよ!」

外に用意されたリムジンに乗り込み、食事会の場所へと向かう。
隣に乗っている骸の体温が心臓を煩くして、ちらりと横目で見るけれど骸は綱吉と逆方向に顔を向けていて、外を見ている猫のように動かない。

「む、骸?」
「…なんですか?」

話しかければ返事は戻ってくるのだが、顔は反対を向いたまま面倒臭そうに答えるので悲しくなる。
もう、骸は自分に興味などないのだろうか。
面倒な用件を持ち帰った自分に、怒り心頭なのだろう。

「や、何でもない。…ごめん」

そう弱々しい声が出ると、ピクリと骸の肩が揺れた気がしたが、きっと見間違えだと綱吉は下を向いた。



目的地につけば、相手は先に来ていたようで出迎えられる。
「やぁ、ボンゴレ。待ってましたよ。」

食事会の相手であるマフィアのボスは、とても巨漢で貫禄のある大柄の男だった。
その男がにこりと笑うので、釣られて綱吉も眉を下げてヘラりと笑う。

「すまないね?なんせ、うちの娘がすっかり熱をあげちまって」
「あははは…いえ、当人同士の問題なので」

上機嫌の男は、綱吉の腰に手を回して笑いながら指差した。

「それはどうやら大丈夫みたいですよ。あぁ、お似合いの二人だ。」
「え?」

言われて指差す方向に目を向けると、心臓が動くのを一瞬忘れたように息が詰まった。
腰を屈め、美しい金髪の娘の手を取りながら笑っている骸の姿がそこにあった。

金髪の娘は白いドレスに、髪をアップに纏め、大きめのピアスをつけている。
骸の立ち振る舞いは、とても紳士的で優雅。
娘は、薔薇色の頬を更に色染め恥じらう。
まるで、プリンセスとプリンスが絵本からぬけ出したようだった。

(何あれ。何あれ。あんな顔、俺に見せた事なんかないじゃないか!)

自分には、見下すように眺めてみたり。
煩わしいように眉を寄せたり。
溜め息を吐いたり。
そんなんばっかりだ。

「さぁ、ボンゴレ。今日は楽しい時間を過ごしましょう。食事はもう用意されている筈ですよ。さぁさぁ、」

ぐいっと肩を抱かれながら、呆然と男の勧めるまま足を進める。

骸の馬鹿野郎、と心で何度も悪態をつく。

何だ、ノリ気じゃないか。
何だ、俺なんかどうでもいいんじゃないか。
何だ、もう…気持ちも変わっているんじゃないか。

(何だよ。嬉しそうじゃん?まぁ、骸だって男だし?美人がいればね、デレデレするじゃんね?あははは、何だよ、俺、馬鹿じゃん…)

シャンデリアが光を反射させ、部屋の雰囲気は豪華としか言い様のないレストランに案内された。
そこには、シャンパンが用意されたテーブルが二席用意されている。

「あ、あの?これは?」

嫌な予感しかしない綱吉は、恐る恐る大柄の男に尋ねると白い歯を出し男は笑った。

「いや、何。天下のボンゴレと食事とあれば、うちの娘も、霧の守護者と話したい事も話せないかと思いましてね。今日はただの食事会ですから、護衛も何もいらんでしょ?」
「は、はぁ…」

ちらりと骸を見やれば、視線がかち合った。

嫌だ。嫌だ。なんか嫌だ。

だけど、護衛は必要だ。だから同じ席で、なんて言ったら相手側を信用していない事にもなる。
それは不味い。なら、守護者である骸が断ってくれたな「…そうですね。では、お嬢さん。僕達はこちらへ」
思考の途中で聞こえた、骸の声に目が見開いたのが分かった。

あり得ないだろ。
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