□友達以上恋人未満?
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穏やかな太陽の光がボンゴレの重々しい扉を照らし出し、赤絨毯が敷き詰められた広い室内には暖かな風が少し開けられた窓に吹き込んで、重苦しい黒いカーテンを軽やかに揺らしているそんな午後。

「で?何です君?もう一度言ってごらんなさい。僕に何しろと?」

不機嫌さを絵に書いたような男が腕を組み、目を細くしながら机で冷や汗をかいている主を睨んでいる。

「やっ、だから。…あの、む、骸さん、顔が怖いんです「君が馬鹿な事を言い出すからでしょ?!」

赤いルビーと青いサファイアの瞳で射て殺しそうなほど睨むのだから、目の前に座る沢田綱吉は生きた心地がしない。
何故ボンゴレの頂点に君臨する主が、その主を護る立場の守護者にこんな態度をとられなくてはならないのだろう。

「だ、だからさ。嫌なら断ってくれていいんだよ。此方さんのお嬢さんが、お前を見て一目惚れしたんだって言われたら仕方ない流れだろ?」
「…ほぉ。仕方ないねぇ?で、のこのここんな写真を?」

机の上には写真が一枚。
美しいブロンド髪、青い瞳。
白い肌に、薔薇色の頬…男なら喜んで食い付きそうな美しい女性が写っている。

「だって、あんな友好条約の後に渡されたら無下に断れない「馬鹿らしい!それで了承したと!?」

ダンと机を叩きつけると、目の前のフワフワした茶色い髪がビクリと揺れた。

「む、骸?あの、そんなに嫌なら断っ「いえ。…そうですか、分かりました」

「へっ?」

マフィアに似合わない大きな琥珀の瞳をぱちりと瞬かせ口元をひきつらせた綱吉に、ニッコリと微笑んだ六道骸が写真を眺めながら鼻を鳴らす。

「君がそう言うなら引き受けましょう。そうでしょ?沢田綱吉」
「あ、あの?む、骸?」
「おや?何です?君がしろと言ったじゃないですか?しますよ。それでいいでしょ?「や、しろとは言ってないって!ただ、そういう話があるってだけで…」
「だから、引き受けましょう。と言ってるでしょ?で、今日の食事会ですか?えぇ、しますよ。エスコートも全部ね。」
「う…、うん。でも断るんだよな?「はぁ?断るなんて誰が言いました?」

写真を乱暴にロングコートのポケットに押し込んで、呆れを含んだような声で綱吉の言葉を遮断する。

「…へっ?」
琥珀の瞳を見開いた綱吉は、骸の端整な顔立ちをぽかーんと眺めた。

「彼女と僕が、食事会の途中に消えてもご心配なさらないように。あぁ、そんな無粋な真似はしないですよね?…ボンゴレ」
「お前…なにする気だよ?」
「おや?言わなきゃ分かりませんか?この女性が僕を望んでるのなら、満足させて差し上げると言っているんですよ!「お、おい!ちょっと待てって!」
「君が言ったのでしょ!…用件は済みましたよね?では、これで」
「ちょっ、む、骸!」

静止の声を無視して、深い藍色の長い髪をなびかせてながら後ろを向く骸がバタンと大きな音を立てて出ていくのを、綱吉は盛大な溜め息を吐き出しながら見送った。

「…あの馬鹿!」

茶色い癖っ毛をガシガシ掻くと、バタりと机に倒れ込んだ。
事の始めは3日前。
新しくファミリーに加わったマフィアのボスと友好条約を結ぶ席で、次の食事会には霧の守護者である六道骸を連れて来て欲しいと要望された。
そして写真を一枚渡されたのだ。
どうやら、霧の守護者である六道骸を相手方の愛娘が気に入ったという。
友好条約を結んだ直後だったので無下にも出来ず写真を受け取り、性格やら色々と問題のある霧の守護者の了解がとれたならと苦笑いしながら別れた。


「断れよ…」

そう。
綱吉は六道骸が断ると予想していた。
だからこそ写真を受け取って来たのだ。
自分の部屋に呼び、骸に写真を見せた瞬間に綱吉の予想に反し骸は激怒した。
まさか、この話を引き受ける事になるとは夢にも思っていなかった。
何故なら霧の守護者六道骸と、ボンゴレ10代目である沢田綱吉は友達以上恋人未満の関係であるからだ。

「俺の事…好きだって言ったのは誰だよ。クソ!」

好きだと言われたのは10年前。
骸が15才、綱吉が14才の頃である。
あの頃の自分を思い出してみれば、マフィア嫌いである骸がマフィアのボスになろう男に告白なんてする筈がないと思っていたし、好きの意味を履き違えていた当時の自分はなんて無垢だったのだと思う。
そのうち恋愛感情として自分を求めているのだと気付いた後も、骸がその事に触れて来ないのをいい事に答を出さないままズルズルと今に来てしまった。
骸は距離を取りながらも、自分の近くに在ったからそれならそれでいいと思った。
正直安墸していたのだ。

答を出す事で骸との関係が変化する事が怖かった。
人は少なからず変わっていくもので、その感情が変わらないと誰も保証できないなら、知らないふりをしていたい。

想い、求める、この感情がお互い変わらない物だと保証があるのなら…

綱吉の方はといえば、骸が復讐者に連行された時から何かにつけて骸が気にかかっていた当時の自分の気持ちと何ら変わらないのだけど。
タイミングを失ってしまった今となっては、どうする事も出来ずに自信が持てない。
だからはっきり断ってくれたら…まだ綱吉を好きだと言ってくれたなら、どんなに懇願されてもこの話を断ったのに。

「まだ俺の事好きなのかなぁ…あいつ」

確信できる事なんかない。
今も変わらず自分を想っているのか分からない。
ある種の試しの気持ちもあった。
だって、もう10年経つのだから。
気持ちが違うものに変わっていてもおかしくない。

「あぁ!もぉ!何だよ!なんだよ!…食事会いつだっけ?ああ。ははは、今日だ!今日!…はぁ、骸が他の人と笑い合ってんのなんか見たくないって…」
深々溜め息を吐き、時計を眺めた。


綱吉の気持ちとは反対に、外では小鳥の声が和やかに聞こえていた。
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