NARUTO「カカスレナル」novel4

□週末の行方
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週末の行方



「妙に静かだと思ったら、そんなことやっていたのか…」

不意に聞こえてきた第三者の声に、盤面から目を離して振り返る。

「どうして急にチェスなんかしている?」

壁に寄り掛かってこちらを見ているのは綱手だった。

「あぁ」

カカシはまだ次の手を決めかねているようだし、いいかと向き直って。

「説明するとだいぶ長くなるんだけどな…」

この状況に至った経緯を話そうと、俺はカカシの動向を気にしながらも口を開いた。



話は、一時間ほど前に遡る。

「ナールトっ!」

綱手の所にいることを何処からか嗅ぎ付けたらしいカカシは、俺の前に現れた。
相変わらず何が楽しいんだか、満面の笑顔で。

「ちょっと確認したいんだけど」

そして、膝の上にあった報告書を奪って聞いてくる。

「もちろん今度の連休は空いてるんだよね?」

確か任務も入ってなかったよね?と満面の笑みで聞いてくる。

「…それがだな…」

期待の篭ったキラキラした瞳で見つめられて、俺は思わず視線を逸らした。



「えぇーっっ!!」

「…大声出すなよ」


予想していた反応とはいえ、思わず耳を塞ぎたくなる。

「だってせっかくナルトと重なった連休なのに!キャンプで三日間ともいないなんて信じられないっ!」

「仕方ねーだろ。もう約束しちまったんだから」

目を逸らしたまま、片耳を塞いで言い訳してみる。

「今から断ればまだ間に合うって!」

「はぁ?何で断らなきゃならねんだ」

「なんでって…」

言い掛けで言葉を飲み込んだカカシが、深いため息を落とした。

「ナルトはいつもそうだよ。たまには俺を優先してくれてもいいんじゃない?」

「それは…悪いと思ってるけど…」

カカシからの誘いを断りまくっている自覚は、さすがにあるから言葉に詰まる。

「だったら今すぐ断ってきて!」

言質は取ったぞ、と言い放たれた。

「無茶言うなよ…」

「ちっとも無茶じゃないって。恋人としては当然の主張だから!」

今回ばかりは、カカシも引き下がる気がないらしい。
かと言って、今更あいつらの誘いを断るのも…色々と消耗しそうだし。

「ったく」

このまま話し続けても口論は平行線をたどるだけだろう。

「だったらこれで決めないか?」

話し合いには見切りをつけて、たまたま室内にあったチェス盤を示した。

「どしたの?それ」

「掃除してたら出てきたんだ。気が向いてこっちに持ってきた」

随分長い間放っておかれていたようで、厚い埃を被っていたけれど。

「話してても埒が明かないし、ここは正々堂々と頭脳戦で決めようじゃねぇか」

「いいけど、俺けっこう強いよ?手加減しないし」

後悔するなよ、と言われて負けず嫌いの血が騒ぐ。

「当然だ。負けるかよ」

一瞬で盤上に駒を並べてみせたカカシが、ニヤリと笑った。

「んじゃ、週末の予定を賭けて、真剣勝負といきますか」

「俺が勝ったら予定通りあいつらとキャンプ」

「その代わり、俺が勝ったら週末は三日ともデートだからね!」



「…と、いう訳だ」

説明を終えると、ちょうどカカシが駒を進めたところだった。
やはりナイトを捨てる気か。この状況では、取っても取らなくても俺が不利なことに変わりはない。
さて、と悩んで顎に手を当てる。

「なるほど。じゃあ、任務が入ったら連絡をしよう」

「何で俺が負けること前提なんだ」

綱手から決め付けられてムッとした。

「おや、お前はもちろん分かっているだろうが、あと三手くらいでチェックが掛かる」

盤面の状況も冷静に観察していたらしい。確かに、そんな事は言われなくても分かっているが。

「絶対こっから巻き返してやる!」

まだ諦めるつもりはないぞと、真剣に次の手を考えた。
もはや賭けの内容などどうでもよくなっていたが、とにかくコイツには負けたくない。

「ねぇ、ところでキャンプって何処行くの?」

だいぶ今更なことを聞かれて、朧げな記憶を辿った。

「…木の葉のはずれにある山のキャンプ場、って聞いたような気が…」

はっきりしない答えを返すと、綱手が頷く。

「あぁ。山間にあるキャンプ場か」

「ふぅん…」

含みのありそうなカカシの返事が少し気になったが、目の前のゲームへ集中しているうちにすっかり忘れてしまっていた。



それから更に数十分後…

「これで、チェックメイトだ」

ルークを一枡進めて宣言する。

「あー、やっぱナルトには敵わないな」

前言に違わず見事に巻き返して勝負に勝ったのに、全くすっきりしないのは。

「…おまえが途中で手抜いたくせに」

そう言って、向かい側で苦笑いするカカシを睨みつけた。

「わざと負けただろ」

手加減はしないと言ったくせに。
言動と行動が矛盾してるじゃねぇか。

「わざとじゃないって。十分追い詰められたから素直に負けただけ。それに、」

カカシは、そこで言葉を切ってにこりと笑った。

「週末ナルトと一緒に過ごすための名案が浮かんじゃったからさ」

「俺はあいつらとキャンプに行く予定、変えるつもりねーぜ?」

名案の内容が全く分からなくて怪訝に思う。

「うん、分かってる。だから俺もついていくことにした」

「はぁ?!」

平然と言われ、呆気にとられた。

「おいおい…」

軽くため息をついたのに、そんな俺を見て綱手が笑う。

「…んだよ?」

「嬉しそうだな」

「バッ、アイツは言い出したら聞かねぇし、諦めただけだっ」

ムキになればなるほど、からかわれるのだと分かってはいたが。

別に嬉しくなんか、ない。
けど、俺があいつらからの誘いを断れなかった理由なんて、ブーイングを浴びるのが面倒だから、というただそれだけだし。カカシがいた方が面白そうだからいいか。

「サクラと取り合いにならなきゃいいな」

「はぁ?」

意味がよく分からなくて聞き返した。

「肉の取り合いならチョウジとだろ?」

「バカ。お前のだ」

「???」

とにかく週末は予定通りキャンプだ。
事件が起きたら遠慮なくカカシを使ってやろう。
何となく顔が緩むのは、有効な利用方法を思いついたからなのだと、自分に言い聞かせてから笑ってみた。

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