NARUTO「カカスレナル」novel4

□お財布の秘密
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あと数センチで、指先が届く。
一冊の本を小脇に抱え、本棚の前で必死にけん垂していると、目指す黄色の背表紙が急に視界から消えた。

「どうぞ」

俺より早く本をさらったのは狼で、こっちを見下ろしてくる顔が苦笑している。


「こんな時は私を呼んでくださればいいのに」

「…変化でも、なんか悔しいな」


鮮やかなフルーツタルトが目を引くレシピ本。事もなげに差し出してくる手からあり難く受け取る。
狼はもう雑誌が入った紙袋を脇にはさんでいて、俺が開くレシピ本を一緒に覗きこんできた。


「お菓子の本?珍しいですね」

「あーでも…これは…ちょっと分かりづらいか」


ぱらぱらめくってみると、写真ばかりがページを独占していて、肝心の手順説明が少ない。
写真だけで読者を釣ろうとしている、よくありがちなダメな本だ。

「へぇ・・・こんなケーキもあるんですね」

でも見事釣られてしまった狼が、光沢を放っているタルトを見て言った。

「もしかして…タルトの事か?」

コクリと頷く狼の口から、ちょっと食べてみたいという本音が垂れそうになっている。

そういえば、いままでタルトは作った事は無かったかもしれない。
写真にクギ付けになっている横顔を眺めているうち、次のメニューを何にすべきかが自然と決まった。


「じゃあ今度の暗部への差し入れはタルトにするか。これはホールだけど、一口サイズにも作れるしな」

「えっ?作ってくれるのですか!?」

「ああ」


レシピを再び棚へと戻した後、喜ぶ狼の意見をさらに引き出した。

「タルトは色んな材料で作れるが・・・桃とかリンゴとか…何がいい?」


本屋を出ながら狼の好みそうな果物を聞いていく。

「そうですね、全部食べてみたいと言うのが本音ですが」

「甘夏なんてどうだ?」


指さしたものは、商店街の八百屋に並べられている旬の果物だった。
甘酸っぱくて、今の季節には向いていると思う。同じ方向を見つめた狼も、俺の意見にすぐさま頷いてくれた。

「甘夏のタルト…美味しそうですね」

つぶやく口から、その声の調子がふいに変わった。


「ん?新しい店?」

「ん?」


アイディアをくれた八百屋の先には、まだいくつものお店が続いている。
不思議がるカカシの人差し指は、ちょうど2件先にあるレンガのお店へと向けられていた。


「あ、あそこケーキ屋だ。先週できたばかりだってサクラが言ってたな」

「へぇ、何ができるのかと思ったら、ケーキ屋でしたか」


同じ地元民だけに注目していた場所も同じだったらしく、真新しいレンガ造りを物珍しげに眺めていた狼の目が、ふと良いことを思いついたようにほころんだ。


「じゃあせっかくですし何か買っていきますか?」

「え…ケーキをか?」

「タルトは今度の楽しみとして。話してたらなんか甘いものが食べたくなりました」


もう一度お店の方を見やって、俺はうーんと返事に迷った。

「ケーキ…」


表の演技上甘いものを食べると言う設定にはなっているが、本来はあまり甘い物は得意ではない。繋いだ手を意気揚々とリードしながら、そんな俺の落ちこみをよそに狼は鼻歌を歌っている。

「甘そう・・・」

俺はいちばん甘くなさそうなケーキを頑張って検索し始める。
どこか食い違ったテンションで辿り着いたケーキ屋は、全面ガラス張りで、ショーケース前の様子が外からも分かるようになっていた。
2、3人のお客さんが既に品定めしているのが見え、入り口前で狼の足が止まる。


「混んでますね…」

「本当だ、もしかして有名なお店なのか?」

「開店したばかりみたいですしね……」

「・・・ん?あれ?」

 「どうかしましたか?」



会話の途中で、急に自分の身体をぱたぱたと叩き出した鷹が、繋いでいた狼の手も離し、黙りこむ。
どうしたんだろうとその行動を見守る狼の前で、直後に大きなため息が生まれた。


「やっちまった…雑誌忘れてきた…」

「えっ!?」


思いがけない報告に身を引く狼と違い、判明したばかりの残念な事実を、鷹はわりと落ち着いて考察する。

「あー…たぶんあの時だな、本を上の棚に戻して…下の並びに置いたままだ」

早々に見当がついたらしく、やれやれと頭をかく姿。


「取りに行ってきましょうか?」

「いや、たんなる俺の不注意だしな。俺が行ってくる」


忘れた紙袋の中身は、鷹が毎月楽しみにしている忍具雑誌。
まだ時間はそう経っていないし、たぶん無事だと判断した鷹が、身体の向きを変えながら苦笑してきた。

「すぐ戻る。先に入って選んでてくれ」

狼が心配そうな顔を向けながらも、分かりましたと承知する。
さっそく駆け出す背中を見送ってから、仕方なく先に自動ドアをくぐると、クーラーのひんやりした風が頬をなでてきた。

「いらっしゃいませ」

冷気と一緒に、お店の奥から甘い香りが運ばれてくる。その素敵な香りに誘われるように顔を上げた。


「ことりの店にようこそ。こちら焼きたてのローズクッキーです。よろしければお試しください」

「ありがとうございます…」


歩み寄ってきたエプロン姿のお姉さんが、笑顔でお皿を差し出してくる。
バラの花びらを象ったクッキーがきれいに並べられている。その1つを受け取ると、まだほんのり温かくて、優しいハーブの香りがふわりと鼻をかすめた
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