SWEET NOVEL

□愛の成分 PART 2
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早朝の澄み切った空気の中に、けばけばしい建物が所狭しと並んでいる。

沙恵が欠伸をかみ殺していると、向かいの建物からカップルが出てきて、どこかバツが悪そうに前を通り過ぎて行った。

目覚めたら、「お医者様」の姿はなかった。もうこれっきり会う事もないだろうし、それはそれで一向に構わない。

ただゆきずりの男とゆきずりの行為に及んでしまった直後の女にも、後悔やら罪悪感やらの感情は湧いてくるようで、やはり、というべきか胸が痛かった。

京一の顔が、頭から離れない。昨晩だって、私は京一に抱かれていたのだ。

だけど心はどうであれ昨晩の出来事は事実として残り、暫く痛みを伴って沙恵の胸に居座り続けるのであろう。

「バカみたい・・・」
独り言のように呟いて、走り抜けた。なるべく周りの景色は見ないようにして。




こんな日に限って仕事が早く片付いてしまった。何も考えまいと、普段よりバカみたいに集中していた所為だ。

淡い期待を抱いて携帯を開いてみたけど、京一からは何の連絡の形跡もなかった。

こんなに京一からの連絡を待ちわびるなんて、何年ぶりだろうか。

連絡、か・・・。

少し淋しくなった。お互いが隣に居る現実が当たり前になり過ぎて、こんな些細な気遣いを蔑ろにして来た事実に。

人は、繰り返される事実を当たり前だと思ってしまう。恋愛なんて殊更そうで。

信じられない。

壊そうとしていた当たり前の現実が、今こんなに恋しいなんて。

京一に、会いたい。

涙が零れた。何も変わらない携帯の液晶画面がぼやけていく。

会いたい、会えない、会いたい・・・。



つづく。

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