悲しき素敵な欲望

□転がるグラスが嘘の数だけ
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『うーん、情念ですかね。
こういう言い方をすると誤解されるかもしれないけど、デビュー当時に比べると、多少なりとも経験してきて、歌詞にも深みが出てきたんじゃないかと、自分でも思う。
秘めたる思いのようなものを女性ってみんな持ってると思うけど、
そこから生じる激しさとか色気とか、今後はもっと違う形で表現していけたらと思ってます』

つい先程、心など求めたりせず、目の前の情事に集中しようと決意したところなのに、
いつしかの彼女のインタビュー記事など思い出して、そこから何かを探ろうとしている俺は愚かだ。

本音、すなわち俺が美月に求めている言葉など、もうどこにもない。
そもそも、どこに何を探しているのかも分からない、分かろうともしない。


「どんなことをさせてみたいの?この私に」

脱がされて、組み敷かれてもなお、彼女はおどけてみせるが、
笑顔の中に浮かべている視線が冷たくて、思わずぞっとする。

「だから、ふざけてんなよ、そうやって」

「じゃあ、私をちゃんと見つめて」

radicalなinnocenceだけ。Is it OK Babe?

朝が来るまで、君の中で泳がせてよ。



昔となんら変わらない光景だ。あの日のように美月は隣に居る。
例えばこのまま目を瞑って、お互いの明るい未来にだけ思いを馳せ、夢とか希望とかプライドだとか、そんな言葉の持つ意味を極力ポジティブに捉え、
色々遠回りもしたし誤解もあったしすれ違いもしたけど、この度リベンジ、いやリスタートすることになりました、
なんて関係者各位に報告さえすれば、俺たちはまたやり直せるんじゃないのか、なんて妄想が頭を過る。


ビートルズが解散した原因ってなんだったけな。
ポールとジョンがモメたのか。ジョージが拗ねたんだったのか。
本当のことなんて誰にも分からない。
だけど、偉大な音楽家だろうが何だろうが、元を辿っていけば、そこにはひどく子供じみた、ごくごくシンプルな感情が剥き出しでひっそりと佇んでいるのではないか。
うっかり触れてしまうとヒリヒリ痛みを伴うくらいの、それはそれはデリケートな姿で。
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