悲しき素敵な欲望

□さめた愛など欲しくない
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「ふーん、カフェオレねぇ。青山、狙ってたよね。
それにほだされた美月も同類だね」

「若気の至りってやつですよ、詩織さん」

「なんか、それだけじゃ片付けられない気がするんだよね 。
私、青山以降も少なからずあんたの恋愛話聞いてきたけどさ。
青山のこと話すあんたの瞳は、未だに少女なんだよなー。」

「それ、若い時からお互いを知ってるからじゃないですか?」

「まぁね。10代の時に聴いてた音楽の方が、大人になってから聴いた音楽より吸収されやすい、みたいなね。」

早熟だった私は、10代にしてあのプリンスの虜になったわけよ。
LOVESEXYのジャケ写、ありゃーエッチだったなー。
…なんて嬉々として語り出す詩織さんの瞳は、それこそ少女の様相なのだった。

いつの間にか、恋も音楽も10代の頃の愛しき思い出として片付けられたようだ。
ビバ大人女子。
今さら先の見えない恋に身を投じたりしないし、現在(いま)を充実させる方法なんていくらでも知っている。

「いつだって今が一番、でしょ?詩織さん」

「おっ、白石珠莉と戦う気にでもなったの?」

詩織さんはコロナの瓶を片手にニヤニヤ笑っている。
どうして話はそうなるのか。
この人はいつだって私の恋愛を面白がってる節がある。
ホントに…なんて思いつつ、それはとても私の心を軽くする。
年齢と共に知らない間に育ててきてしまった、妙な道徳心と対峙することから暫し逃げられるから。

「私が戦わなくても、世間が戦わせてるんじゃないですか」

「あんたは珠莉とは別格だと思うけどなー」

「ほんとですか?そりゃ嬉しい」

今度は私がニヤニヤする番だった。
形なんかなくたっていい。どんな感情だって構わない。
侑真の心や身体に、田辺美月という存在が亡霊のようにまとわりつく様を想像するだけで、私は暫しの快楽に浸れるのだ。
我ながら悪趣味だとは思うけれど。

「美月、ミイラ取りがミイラにならないようにね。せいぜい気をつけな」

コロナの瓶を片手に、えへへ、と笑う私を、詩織さんは呆れた表情で見つめていたのだった。


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