悲しき素敵な欲望

□さめた愛など欲しくない
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「あーあ、また青山がやらかしちゃったよ」

都内のダイニングバーにて。
私の前でスマホをいじりながら、スタイリストの詩織(しおり)さんが何やら呟いている。
Webニュースを見ているらしい。

「何のことですか?」

「美月、知らないの?」

ほれ、と言って詩織さんは、スマホ画面をまるで印籠のように見せた。
最近よく見る女性歌手の顔に、某ファッションブランドのオープニングセレモニー。

”白石珠莉 青山侑真とは、良い思い出”

「彼との出会いと別れは、私を大人の女にしてくれました、だってさ。
洋服が主役の場で、何をペラペラ喋ってんのかね、この子」

詩織さんは私より2つ年上で、田辺美月デビュー時の15年前からの付き合いだ。
当時はアシスタントだった彼女は今独立し、映画、雑誌と活躍の場を広げているけれど、
忙しい仕事の合間をぬって、こうして私とディナーに付き合ってくれるのだ。

「傷心の珠莉ちゃんとやらは、大好きだった彼を忘れるために、お仕事を精一杯頑張りますってね。健気じゃないの」

「本気でそう思ってます?」

「まさか」

私達は顔を見合わせて、ふふふ、と笑った。
年齢を重ねていてよかった、と思えるのはこんな時だ。
日常に秘められた悲しみ、涙の裏のささやかな計算。
ガキの小細工なんかには騙されない。
あんたより10年近く長く培ってきた経験を、なめんじゃないわよ珠莉。
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