悲しき素敵な欲望

□転がるグラスが嘘の数だけ
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「シャンパンの気泡のように、あの頃の思い出が浮かんでは消え。
ペリエ・ジュエ・エポックなんて、今の俺たちにしては気取り過ぎたかな?」

「何それ?リズム感悪いし、やたら小奇麗な言葉選びがまるで侑真らしくない。
その歌詞、ダメだよ。ボツ」

「別に音楽の話してんじゃねーよ」

白いアネモネのグラス越しに見える、大都会TOKYOの夜景。窓に映る半透明の君と僕。
2人でこうしていると、時が経ったことさえ忘れそうだな?と、
俺はシャンパングラス片手に隣で微笑む女を引き寄せる。

「相変わらずそうやって女の子口説いてんの?」

美月は、俺にもたれかかりながら少し笑った。


珠莉と別れてから、俺たちはこうやって度々会うようになった。
逢瀬の場所にホテルを選んだのは、紛れもなく混乱を避けるためだ。
過去の出来事とはいえ、一度は噂になった2人だし、面白おかしく書き立てられて振り回されるのはごめんだし。
俺たち、もう付き合ってるわけじゃないんだし。



俺の胸を這う触手のような美月の指先に、弱みを見せてしまいそうで思わず身構えた。
絶妙な力加減で、罪と快楽と欲望を弄びながら刺激してくる。
やばい、反応するわけにはいかないと、おそらく永遠のテーマであろう、中学2年生のようなことを考えながら、美月の手をそっと掴み、緩やかに振り解く。

「どしたの?興奮でもしちゃった?」

問いには答えず、彼女をぐいっと抱き寄せ、唇を塞いでやった。
ふうっ、と甘い吐息が漏れ、俺の背中に回した手に力が入る。
ふーん、こいつも女じゃんか、と逸る気持ちと秘かに闘いつつ、ワンピースの背中のファスナーに手を伸ばし、耳元に唇を近付ける。

「おまえだって感じてんだろ?」

これはあくまで心理ゲームだ。
交わされる言葉の数々はアクセサリー、もしくは、今この場所、この状況のみ使われる特別用語か何か。

愛は媚薬に、恋はスパイスに。
イケナイコトに酔いしれていたいのは、2人同じなんだろう?ねぇドンファン。
戯れのLOVE、SEX、KISS.
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