悲しき素敵な欲望

□何一つ残ってないけど
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シャワーに射たれながら、ヘタクソ…なんて呟いたら、可笑しくなってきて、思わずひとりで吹き出してしまった。
満たされないのは、身体か、心か。
ちぐはぐのBODY&SOULが、なんだか切ない。

10歳も年下の男の子に求めるのも酷な話だし、私より経験も少ないだろうから仕方がないのだけど、
彼はとにかくセックスに余裕がない。
あのね、ここはね、もう少し優しく触れた方が…
なんて、私がレクチャーなんかしたらムードが壊れるじゃない。
じゃあ、欲しがるふりして、それをやれば良いのか?と、甘い声でねだってみたが、
そもそも、彼のテクニックが追いつかなかった。

バスルームから出てベッドに目をやると、おいでよ、と彼が手招きをしているのが見えた。
何だかB級映画を演じているみたいだ。
きっとそういうことが、楽しいお年頃なんだろう。いつか見聞きした恋愛風景を自分で再現してみせることが。
そしておそらく、表情や角度なんかを気にしながら、バスタオルで髪をゴシゴシやってる私も同罪なのであろう。


彼は新進気鋭(と、業界では評判だ)のロックバンド、゙TOXIC゙のボーカルだ。
名前を玲央(れお)という。通称Leo。
去年のイベントで一緒になった時、ファンなんですと声をかけられたのがきっかけだ。
長年音楽をやってると、こういう輩は意外によく居るので、さほど気にも留めていなかったのだが、彼はそれからも幾度となく声をかけてきた。

物見遊山な気持ちなんだと思っていた。
昔、TVで見てた人とデートしてみたいとか、田舎の同級生に自慢してやりたいとか、メンバーとの話のタネにでもなるかなとか。
だから私もそういう気持ちでいた。
うんと年下の男の子にデートに誘われたんだ、すごいでしょ、なんて。
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