悲しき素敵な欲望

□諦め顔の良くできた歯車の様に
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動画サイトを立ち上げ、田辺美月 青山侑真で検索をかける。
恋愛関係になる前から仕事であらゆるコラボをしてきた2人には、たくさんの情報があがってくる。

青山侑真提供曲リスト、ライブ飛び入り参加、ラジオゲスト…。
しかしながら、どれもこれも、
私達は音楽を愛してます、といったような優等生の表情をしていて、あたしを何一つ納得させてはくれなかった。


侑真さんとの別れを選んでからというもの、あたしは性懲りもなくこんなことばっかりやってる。
女性に対してむき出しの心で接しようとしない、あの軽薄な男の本性を暴いてやろうと思ったのだ。

今となっては、あたしのファン、すなわちジュリエット以外は知らないし、信じないだろうけど、あたしはずっと美月さんのファンだった。
初めて自分のお小遣いで買ったCDも美月さんの2ndだったし、美月さんに憧れてあたしはこの世界に入った。

あたしが中学校に上がる頃には既に美月さんは大スターで、
東京ドームとか武道館なんていう大箱のステージで飛び跳ねたり、寝転がったり、時々、泣いたりしていた。
抜群の歌唱力にアイドル的なルックス、そして等身大の歌詞で(あたしを含め)当時の10代にカリスマと呼ばれていた美月さん。
そんな彼女が、アタシをイカせてー、もっともっとー、欲しいー、なんていう、決してお行儀の良くない、卑猥な言葉で客席を煽る姿に、あたしは夢を見いだせた気がした。

あたしは歌うんだ、カリスマになるんだ…。


「田辺美月さんみたいに、なりたいんです」

都内のレストランで初めてサウンドプロデューサーの人と会わせてもらった時、あたしはこう伝えた。
カリスマになりたいんです、と。

「美月が好きなら、彼も聴かなきゃ」

美月、と昔からの知り合いみたいに呼んだプロデューサーさんが勧めてくれたのが、侑真さんの2ndアルバムだった。

「彼のアルバム、音楽クリエイターの必携盤になってるんだ。
美月に提供した曲の感じとはまた全然違うから、一度聴いてみなさい」
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