イナズマ青春記
□第36話 次は世界で
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「明日、なんですね」
「寂しくなるねえ」
「あの」
「ん?」
「その、手……」
「あ、嫌だった?」
「えっ、や、全然大丈夫です!」
自宅リビングにて、ソファーで寛ぎながら立向居の頭を撫でる。あー、可愛い。ザ・後輩って感じがする。
あわあわしたりしてる時とかも可愛いし、円堂関連の話をしてる時は物凄くイキイキしてるし、見てて飽きない。子犬か。
「お、何やってんだ?」
「立向居を愛でてる」
「へー。なら俺も!」
「え!?」
綱海と一緒になって、立向居の頭を撫で回す。最初はあわあわしていたけど、最終的にはされるがままになった。可愛い。
この癒しも明日には無くなる。そう、明日はスカウトしたみんなが、それぞれの地元へ帰る日だ。
キャラバンで送り届けるから明後日まで一緒のやつもいるけれど、それでも当分は会えないと考えると寂しい。
エイリア学園との長い戦い。大変だったし、辛いこともあったけれど、いい仲間たちに恵まれたし、やっとかなと仲直り出来た。
何年も引きずるとか、りなには迷惑かけたなあ。気にしてたようなそぶりはなかったから、考えてもみなかった。
「で、綱海はあたしの髪をそんなにぐちゃぐちゃにしたいのか」
掻き乱されて滅茶苦茶になったのを直そうと、ゴムを外しながらジト目で見る。あ、中のゴム切れそう。ストックあったっけ。探そ。
「あー、ほら、ゆみも頑張ってたからさ」
「は?」
「お疲れ!って感じでさー!」
ニカッと笑った綱海はあたしの背中を少し叩いたかと思うと、今度は軽くぽんぽんと頭を叩く。
見た目はこれでも一応精神年齢は綱海より年上なんですけど、と思いつつも漠然と嬉しいと思う。
何かをやり遂げて凄いとか言われることはあった。でも、お疲れだなんて誰かに言われたのは、幼馴染みを除けば何年ぶりだろう。
今までにも度々思ったけど改めて、綱海は兄さんに似てる気がする。おおらかなとことか、主に性格が。容姿及び学力は似てもにつかないが。
なんて。こんな風に重ね合わてみたって兄さんはもういないし、誰も代わりにはなれない。綱海は綱海だし。
例え似ていたとしても、代わりはいない。それは"ヒロト"にも通じることであって、……だからりなは気にしていたのかもしれない。
吹雪だって、アツヤを演じてたわけだけど……、どんな気持ちで、どんな想いで自分の中にアツヤの人格を産み出したのか。
「うーん」
「どうした綱海」
「りなとかなもだけどさ、ちっちゃいよな」
「失礼な。あたしたちは平均身長だ。本当は高2だし、165以上あるわ」
「マジか!でけーんだな!」
「何でだろう。それはそれで傷つく」
平均身長で小さいと言われるのも、165以上ででかいと言われるのもなんとも言えない。つか前者は偏見でしょ。
「あたしが小さいなら木暮はどうなんだよ」
「確かに……そう、ですね」
「無理してフォローの言葉探さんでいいってば」
「チビとか言うな!」
「あ、木暮。いつからいたんだよ」
「今来たばっかだよ。絶っっ対見返してやるんだからな!」
「はいはい楽しみにしてる」
反抗的な視線を向けられるけど、生憎木暮お得意のタバスコはあたしには効かない。わさびやからしもいける。辛党万歳。
ぎゃーぎゃー言いながらべしべしと足を叩いてくる木暮と、宥めるあたしを見ていた綱海が、愉快そうに笑いながら言った。
「なーんかさ、ゆみと木暮って姉弟みたいだな」
「へえ。だって、木暮」
「はあ!?こんな姉とかいらねー!」
「あたしだって、弟にするなら立向居がいい」
「お、おおお俺ですか!?」
「やっぱ嫌だった?」
「そんなことないです!……で、でも、もし姉弟だったら……」
「どうかした?」
「い、いえ。綱海さんはお兄さんみたいだなって」
「俺?」
「ああ。確かに、唯一の3年だし、チームの兄貴って感じするね。ムードメーカーで」
「へへ、なんか照れんな」
照れ隠しなのかなんなのか、バシバシと背中を叩かれた。正直痛いからやめていただきたい。
「ん、あー……ねむ。ちょっと寝るわ」
「わっ。ゆ、ゆみさんっ!」
「申し訳ない。丁度いい位置と高さ、だったから」
「あ、え、えっと、大丈夫です!」
隣にいる立向居に頭を預ければ、立向居は慌て出した。いきなりだったし、当たり前か。
「じゃあ俺も寝る!」
「寄っかかんな。重い。…あと、綱海の髪ボリュームありすぎ」
「そんなの、海の広さに比べればちっぽけなことだ!」
「じゃ、俺も寝るよ」
「はあ」
木暮があたしと綱海の間に入ってきた。何か言おうとしたけど、襲ってくる睡魔に負けて、あたしは穏やかな気持ちで眠りについた。
「あーあ、……風邪引くよ」
十数分後、リビングで寝ている4人を見て、ブランケットをかけるりながいた。
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