イナズマ青春記
□第35話 そしてそれから
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表彰式が終わって、財前総理が用意してくれたという立食式のバイキングに行くことになった。
……リカが一之瀬と結婚式を挙げる時はスピーチをお願いします!と総理に言った時は、流石に苦笑せざるをえなかったという。お幸せに。
早くも壁山が涎を垂らしそうになっていて、それを見た木暮がからしのチューブを片手ににやにやとしている。
あ、ゆみが没収した……で、タバスコの瓶握らせた。悪ノリしたな。春奈ちゃんに言っとこ。かなはかなで、一之瀬たちと談笑している。
それより、
「風丸」
「うわっ!な、何だ?」
ぼーっとしている風丸の背中を叩けば、ちょっと大げさなくらい肩を揺らした。そんなに強くは叩いてないんだけど。
叩かれた事に驚いたのか、それとも、あたしに声をかけられたことに驚いたのか。
「今日朝からあんま浮かない顔してるけど、どうしたの?」
「いや、……まあ」
「やっぱり、4日くらいで吹っ切るのは難しいってとこか」
「……りなには敵わないな」
そう言って、風丸は苦笑した。別に、あたしじゃなくても分かるよ。
ダークエンペラーズだったメンバーの中で唯一(かなは除外)表彰式に出たわけだけど、最後まで出ることを渋っていた。
結局、円堂に背中を押される形で参加したけど、それでも楽しそうな表情は今日一度も見ていない。
風丸は生真面目かつ誠実だ。そして面倒見がいい性格からして、周りのことをよく見てる。
弱音を吐けば、みんなの士気が下がる。そのことを分かっていたから、溜め込ん結果、ああいう選択をしてしまったのだろうと勝手に分析する。
「……本当に、悪かったな。かなを巻き込んで……」
「あー、はいはい。もう分かったってば!あたしも、ゆみもかなも気にしてないし」
「でも、」
「風丸は責任感強すぎ!もっと肩の力抜きなよ。だから押し潰されちゃうんだって」
「あ……はは……」
「(しまった)」
ヒートアップすると言い過ぎてしまうのは、あたしの悪い癖だ。直さないと。
「まあほら、合宿で円堂辺りとしっかり話してきたら?2人きりになれる機会くらいあるだろうし」
「……それもそうだな。ありがとう、りな」
「どういたしまして。てか、お礼言われるようなことしてないよ」
「俺が言いたかったんだ。いいだろ?」
「イケメンか」
「え?」
「こっちの話」
「そうか。……あのさ、」
「何?」
「こういうこと、りなに言うのもおかしいとは思うんだけど、」
そこで風丸は一旦切って、わいわいと騒いでいる円堂達の方を見た。ごめん、と一言断られてから、廊下に出て少し離れた所に移動。
「で?」
「なんか、さ。かなに言われたんだ。俺が、りなのこと好きなんじゃないかって」
「へーえ……」
なんつーこと言ってんだ、あのバカは。悩んでんじゃんか。
「あの後ごたごたしてたから、全部終わってから、1人で考えてみたんだ」
「ふんふん」
「俺は……りなのことは友達として、仲間として好きなんだって、俺なりに結論出したんだ」
「ですよね。あたしも、友達として仲間として、風丸が好きだよ」
「あ、ああ……」
「それで、それを何であたしに?」
「一応りなに言っておきたいなって思ったんだ。勝手なんだろうけど、自分の中で区切りをつけたかった」
「……成る程ね。全然勝手じゃないよ。こういう風にストレートに好きって言ってもらえるの、結構嬉しいんだから」
「な……!」
みるみるうちに風丸の顔が赤くなっていく。ウブだなあと微笑ましく思えるのは、あたしが精神的には高校生だからだろうか。
まあ、最近は感情的に動いてる節があるから、割りとマジで精神が中学生に戻りつつあるようにも思う。
「ほ、他にも理由はあるんだ!」
「へー、どんな?」
「なんか、その……ゆみとかなが怖くて……」
「それは申し訳ない」
ゆみとかなは自他共に認めるシスコンだから、それぞれ姉妹に対して好意を向ける人がいると、ことが起きる前に終わらせる。
あたしだって、気づかないわけじゃない。というかそこまで鈍感じゃない。寧ろ鈍感はゆみだし。
自慢ではないけど、過去に何度か告白をされた事がある。もちろん断ったけど、その後、告白してきた男子はあたしを見ると逃げるようになった。
あの時は、改めてちゃんと話してもらえるようになるまで、かなり時間がかかったもんだ。全く、何をやったんだか……。
「風丸なら大丈夫でしょ。あたしの持論なんだけど、男女間の友情は成立すると思ってるから」
「なんだよ、俺ならって。まありなが言うなら、きっと大丈夫なんだろうな」
「おっと、それを理由に責任転嫁しないでよ?」
「分かってるって」
お互いに顔を見合わせて、笑いながらこつんと拳を合わせた。これから、風丸といい関係を築けたらいいなと思う。
会場に戻ると、後ろから士郎に抱きつかれた。……あたし、何でこんなになつかれたんだろう。
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