イナズマ青春記
□第8話 炎との別れ
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まあどうしようもなかったことを、今さら振り返ってくよくよしても仕方がない。
たらればなんて、もしもなんて、最善なんて、分かる訳がない。仮に最善の選択があったとしても、当時のあたしがそれを選べたかも分からない。
そんなことより、今は目の前の試合を見るべきだ。……あ、かながイライラしてるな。これはベンチからでもよく分かる。
「ゆみ」
「……ん?」
「どう思う?」
「どう思うって……こうなることは最初からわかってたしさ」
「そうじゃなくて、かな」
「あー……性格からして、まあこうなるよね」
「……うん」
ゆみって変に現実的なところがあるよなあ……と思いつつ、再びグラウンドへ目を向ける。
目に入るのは、長い髪を靡かせながら走る妹。今は、ボールを受けた豪炎寺を横目に並走している。
「豪炎寺!」
「!」
「パス!」
「だが」
「無理すんなって。シュート打てない理由があんだよね?ほら!」
「……すまない」
ボールを受け取ったかなが、バリバリと雷を纏ってサンダートルネードを放つ。しかしそのシュートは、ゴルレオの手に収まった。
「ちっ、やっぱ無理か……。ごめん、シュート決まんなかった」
「……俺は」
「誰にでも失敗はあるわけだし、大丈夫大丈夫!あたしは平気。全然平気!だから豪炎寺も元気だせって!」
「……」
「……まー、決まったら決まったで豪炎寺が困るかもしんなかったし、ある意味結果オーライということで」
「! かな、」
「困った時は分かち合いー、ということで。仲間なんだから、決められない辛さを豪炎寺だけに背負わせないよ」
「っおい」
「さー、ディフェンスディフェンス。張り切っていこー!」
拳を突き上げ、自陣へ走っていくかな。シュートを打ったのは、点を取れない、チームに貢献出来ないのは同じだっていう主張か。
豪炎寺が全力を出せないのは、人質がいるから。でも、人質がいなかったとしても、1度目の試合を考えると、豪炎寺が決めるのは難しいだろう。
かなの平気、というのは嘘ではない。今の実力では破れないことは分かりきっていたし、実際かなは立ち直りが早い。
あの時もそうだった。だから、何度もゆみとぶつかった。仕舞いには取っ組み合いの喧嘩までして。
この世界に来て、またサッカーをやるようになった。ボールを蹴るようになった。今、かなはどんな思いでボールを追ってるんだろう。ゆみは……。
「ねえあれ、フラグ建ってない?」
「ああうん……そうだね……」
……なんか、考えてるのが虚しくなってきた。はいはい、フラグフラグ。もうそれでいいよ……。……。
「……あのさ、ゆみはサッカー好き?」
「このタイミングでそれ聞く?……好きじゃなきゃやらないでしょ」
「うん」
「嫌いじゃない」
一歩ずつでも、克服していくつもりがあるなら、大丈夫だろう。ボールを蹴っている時のゆみは、生き生きしてるし。
「(なんとかなるさ、ってとこか)」
鬼道がジェミニの攻撃パターンを見破り、こちらの攻撃も回り出したところでハーフタイムです。
といっても、エースストライカーが不調な為、得点は依然0のまま。そしてこのままなら、後半も取れずに終わる。
理由があるとはいえ、チャンスをものに出来ない罪悪感からか、豪炎寺が落ち込んでます。もっと上手いフォローが出来たらなあ。
フォワードは大変だ。攻めるのは別にフォワードじゃなくても出来るけど、攻撃の中心を担うのはやっぱりフォワードで。
止めて奪って、繋げて、繋げられたボールが回ってくる。期待と信頼は時にプレッシャーにもなって、決められなかった時の申し訳なさといったら。
あたしでさえそう思うんだ。ストライカーで、エースの豪炎寺は、みんなの思いを裏切ったと思ってるんじゃなかろうか。
「(別に豪炎寺が悪いわけじゃないのに……)」
人質を取るようなきったねー事するエイリアの方が間違いなく悪い。サイテーだサイテー。……まあ、
「(あいつらもある意味被害者なんだよな)」
孤児ではあったけど、大仏氏の慕われぶりを考えるに、それなりに楽しく過ごしていたんだと思う。けどそれは、エイリア石によって崩れた。
持った者に絶大な力を与える石ころのせいで、父として慕っていた人が変わってしまった。復讐心が芽生えてしまった。
大好きな父さんの命令で、あんなことをさせられている。復讐の為の、駒として使われている。
特に円堂の追っかけしてる人なんか悲惨すぎる。まだ追っかけはしてないけど。あー、円堂マジ太陽。
死んだ人間は生き返らない。それをあたしは、身を持って知っているつもりだ。例えどんなに似ている人が現れようとも、同じ人間な訳がない。
分かってはいるんだろう。いたんだろう。それでも、死んだ息子と重ね合わせて同じ名前をつけるなんて、結局は現実逃避してるようにしか思えない。
慕う父は“自分”を見ていない。なんて酷なことか。まあ、アイツだけじゃないし、元々二期は悲惨なの多いけどさ……。
「復讐なんて意味ないのに」
復讐をしてなんになる。第一、息子が好きだったもので復讐なんて、それこそ死者への冒涜なんじゃなかろうな。
円堂じゃないけど、大好きなサッカーをこんなことに使っちゃダメだなんだ。それに……、
「―――が大好きだったサッカーを汚されるなんて絶対に嫌だ」
違う世界のことだとしても、結末を知っていても、複雑なもんは複雑なんだ。難しい。
ぼんやりとそんな事を考えてたら、なぜかエイリアのエージェントを目が合った。
「(……くたばれっ)」
左手の親指を下に向けるも、普通にスルーされた。もしかしたら意味が分からなかったのかもしれない。いや、分かんなくていいけど。
そんなことをしていたら、ゆみに後頭部をはたかれた。地味に痛くて頭をさすっていると、監督から後半の作戦が告げられた。
それはディフェンスラインを、ギリギリまで上げるというものだ。もちろんこれでは、点が取られ放題になる。当然みんな反発する。
でもこの作戦は、次の試合につなげるための作戦だ。悔しいけど、どのみち今の雷門では、ジェミニから得点は出来ない。
このままやっても半田やマックス、影野たちの二の舞になるだけ。だから、今は耐える。……辛い、な。まだまだこれからなのに。
みんなが訝しげに監督を見つめる中、豪炎寺はぼーっとしていた。大丈夫、ではないよなあ。
「豪炎寺」
「! ……かなか」
「豪炎寺は悪くないから、そう落ち込むなって。点取れないのはあたしもだし」
「……ああ」
「聞いてる?」
「……」
「ちょっと!」
「っ」
ばちんと両手でこちらを向かせる。顔が、近い。……何やってんのあたし!?何やってんの!?やばい!やばいなこれは!?
か、顔がいい。シスコンだけど顔がいい。不思議そうに見てくるところに、天然さを感じる。
「……どうした」
「い、イケメンですね?」
「……」
「あの、間違えました」
「……ふ」
「ごめん忘れて。なんなら土下座するから土下座も辞さないから」
「……っく、ふ」
「笑わないでください勘弁して」
口元を押さえてぷるぷるする豪炎寺。それすら決まっていて腹立つ。イケメン腹立つ。試合前は笑わしたかったけど、今は違う。違うんだからな!
言い返したくても、うまく言葉が出てこない。どどど、どうしよう。何でこういう時に限ってゆみは来ないの。何をしてるのさ。
「かな」
「ナンデスカ」
「ありがとう」
「……何で撫でるの。撫でないでよ」
「すまん」
あたしは夕香ちゃんじゃないよ、と言いかけて慌てて飲み込む。いけない。せっかく笑ってくれたのに、地雷踏むとこだった。
「試合、さ」
「……ああ」
「今は負けても、諦めなければきっと勝てるよ」
「……そうだな」
今はこれが、精一杯。
ホイッスルが鳴り、後半が始まった。ゴール前には誰もおらず、選択肢は全員攻撃のみ。シュート打たれ放題の点取り放題だ。
ジェミニが点を重ねるごとに、円堂は傷ついていく。点差はどんどん開いていく。ああ、
「(悔しい、な)」
割り切れたら、楽だったのに。
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