イナズマ青春記
□第7話 奈良へGO!
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「遅い」
「ごめんなさい」
集合場所に着くと、開口一番ゆみに言われてしまった。全員揃うのを待っていたらしい。本当にすみません。
地面には池から引き上げられた、例の黒いサッカーボール。おもむろに円堂がボールを持ち上げようとしたけど、余程重いのか出来なかった。
キーパーで常日頃からタイヤ特訓をしている円堂が、持てない重さ。それを軽々と蹴るエイリア学園。やばさが凄い。
「ゆみは持てる?」
「無理でしょ」
「えっ持てるのか!?」
「円堂今のあたしの返し聞いてた?」
「やってみれば?」
「りなまで……。……やればいいんでしょ、やれば。っ、うぐぐ……」
ボールに手をかけたゆみが持ち上げようと踏ん張る。浮いたか、と思った矢先、ゆみが手を離した。
「やっぱ無理」
「でも1ミリくらい持ち上がったね」
「何でわかるんだ……」
「妹たるもの姉のことはなんでもわかるのだよ豪炎寺」
「……そうなのか?」
「なんでもではないよ」
りなに一刀両断された。若干豪炎寺から憐れみの視線を向けられているような、ないような。
さて、このボールをどうしようか。となったところで、「全員動くな!」という声が響いた。聞こえた方には黒スーツの大人たち。
「財前総理はどこだ!どこに連れ去った!」
「え、あのー、ちょっと!」
「黙れ!そこにある黒いサッカーボールがなによりの証拠だ!」
「ち、ちが……これは池に落ちてて!」
反論しても聞き耳持たずだ。拐われた財前総理のSPとはいえ、そんなにあたしたちを宇宙人に仕立て上げたいか。
「いきなり宇宙人呼ばわりすなるんて、失礼じゃないですか!」
「そうだそうだ!川に捨ててやろうか!」
「えっ」
「ごめん風丸、気にしないでね」
「むぎゅ……」
口を塞がれてしまった。抗議しようとしたら何やら縄っぽいのを取り出されたので、黙ることにする。何に使うの、それ。
その時、「宇宙人はどこだ!」と女の子の声が飛んできた。スーツを来た女の子――塔子だ。わお、可愛い。
塔子は円堂を見て、ジャージを見て、ハッとする。そして鼻で笑うと「動かぬ証拠があるのに、往生際の悪い宇宙人ね」と言い放った。
「俺たちのどこが宇宙人に見えるんだよ!」
「疑うにもほどがある!」
「そうやって必死に否定するところが、ますます怪しい」
「……いくら総理大臣のSPだからといって、いきなり宇宙人扱いなんて酷いでしょう。証拠にしても、薄すぎる。
エイリア学園は全国に出没しているのだから、どこにこのボールがあってもおかしくない。案外、頭が回らないんですね。総理が誘拐されたのも仕方ないです」
あ、りながキレた。痺れを切らしちゃったか。めちゃくちゃ煽るなあ。塔子はぽかんとしてるし、大人の皆さんは睨んでいる。
けれど一応、言ってるのは塔子以外のSPに対してで、まだ理性はあるな。塔子は雷門だって気づいてるもんね。大人より子供のが洞察力があるって……。
「……温厚そうに見えて、わりとすぐキレるタイプだよな、りな」
「すぐというか、大人しいけど琴線に触れたら即爆発するみたいな感じ。でもラインがよくわからない」
ボソッとした風丸の呟きに、ゆみが返す。そうなんだよなあ。りなの線引きがよくわからない。
そしてまた「宇宙人だ!」「宇宙人じゃない!」の問答合戦が始まる。宇宙人がゲシュタルト崩壊しそう……。
「キリがないな……。あたしたちが宇宙人じゃないって証明できればいい?」
「……そうだね。そこまで言うなら、証明してもらおうか!」
「おう!望むところだ!」
そんなわけで連れてこられたのはサッカーグラウンド。サッカー勝負というわけだ。
「向こうが大人だからって怯むな!ピッチに立ったら同じサッカー選手だ!」
「ああ!ドンドンゴールを決めてやる!」
「でも、相手が相手だけに体力的に差がある。ペース配分に注意しないと」
「しかもこっちは1人足りないしな……」
「はいはい!あたしたちは!」
「あくまであたしたちは控えでしょ。で、どうする?司令塔さん」
「そうだな……。なら、」
「待って。最初は10人で行こう」
鬼道が何か言いかけたのを、りなが遮った。えっ、なんでなん。
「でも人数が……」
「いいからいいから。ね、お願い」
「……わかった。足りない分は、全員でカバーだ!」
困惑するみんなを他所に、ごり押しで通ってしまった。確かに、本来は10人、更には7人で戦う試合だけど……。
そして黒スーツ集団について調べた春奈ちゃんから、彼らは大のサッカー好きである財前総理のボディガートでもあるサッカーチームだとの説明が入る。
サッカーで体を鍛えてるってことだ。総理がサッカー好きだからSPもサッカーしてるとか、なんという超次元。
「監督、アドバイスをお願いするッス」
「とりあえず、君たちの思うようにやってみて」
早速放任である。まあ新体制になって初めての試合だから、まずはどんなプレイをするか見てみたい、ということか。
「じゃあ、10人でのフォーメーションはどうする?」
「うーん。まずは守備を固めて、」
「いや、MFに風丸と土門を当てて、オフェンスを強化する」
「攻撃型の布陣に?」
「こういう時こそ、先取点が大事なんだ」
「そうか!守りに入っていたら、点を取るチャンスは減るってわけか!」
「攻撃は最大の防御、ってこと?」
「そういうことだ。それに俺たちのゴールはお前が守ってる。安心して攻撃に集中できる」
円堂へチラッと視線をやった鬼道に、頷く一同。何故かはよくわからないけど、円堂には絶対的な安心感があるよね。
「よし、みんな!頼むぞ!」
『おーっ!』
さて、どうなることやら。
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