イナズマ青春記
□第7話 奈良へGO!
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やってきました、奈良。そして奈良シカ公園。当然ながら警察の人やらなんやらがいて、入れそうに見えない。
「ここまで来て門前払いかよ」という染岡の呟きに、掛け合ってくると円堂が飛び出していく。
それを一瞥した夏未ちゃんは、どこかへ電話をかけた。電話の相手は理事長で、入れるようにしてくれたと。
「どんだけ顔が広いんだよ、理事長って」
「同感だよ。とにかくありがとう、夏未ちゃん」
「別に私は……」
「うーん、やっぱりツンデレだよなあ……」
「かなさん」
「はい!」
「ツンデレって何かしら」
「え」
あっ、そこか……。ツンデレっていうのはだね、……いやなんでもない。ゆみの目が冷たいし、やめておこう。
それにしても公園の壊し方半端ないな、おい。あっちこっちにクレーターみたいな跡がある。黒いサッカーボール凄すぎる。
そしてエイリア学園の手がかりを探すため、バラバラに別れた。
「りな、1人でふらふらしないで」
「あ、ゴメン」
「また迷子になるよ」
「迷子にはならないって」
りなは1人にしておくと、すぐに迷子になる。正確にはふらふらとどこかへ行ってはぐれちゃうんだよなあ。地図読むのも下手だし。まあそんなわけで、
「奈良といえば鹿!鹿といえば鹿せんべい!ってことで買ってきた!」
「いつの間に……。それにどんなわけだって」
「まあまあ。せっかくだし、ね?」
「2人の分もあるよ」
「待ってちょっと量が多すぎない?」
「買いすぎました。さーて、ばらまくか」
「はあ……。……ん?何、あの茶色の集団」
「え?」
ワラワラ、ワラワラ……と続々とやってくる茶色。これは、鹿……!
「鹿に……囲まれてしまった……!」
「アホ!」
「その鹿せんべいに集まってるんだよ!」
「え、どうしよー……やっちまったぜ」
「うわ、ズボン噛まれた」
「投げろ!」
「はいっ!花咲かな選手、大きく振りかぶってぇ……投げました!」
全力投球で鹿せんべいをぶん投げる。どうせなら腕力のあるゆみにやってこなかったもらえばよかった。あ、投げるなら腕力じゃなくて肩か?
ダダダッと、凄い勢いで去っていった。あたしたちの周りには鹿一匹いなくなった。これにて、一件落着!
「うわーーー!」
「あれ?」
誰かの悲鳴だ。相当遠くに投げたつもりだけど、もしかして誰か巻き添え食らった?だとしたら申し訳ない。
どうしようかとりなを見ると、助けてきなさいと言われたので、助けに行くことにする。
投げた方へ行くと、緑色の男の子が鹿に囲まれ……襲われていた。ポニーテールの、男の子。アッこれあかんやつだ……。
助けるか否か、迷ったのは一瞬だけだった。鹿をかき分けてもう原型を留めてない鹿せんべいを拾うと、更に遠くへ投げる。これでよし。
「あ、ありがとう」
「実を言えば、こっちの方に鹿せんべい投げたの、あたしなんだ。ごめんね」
「ところでどうしてここにいるの?立ち入り禁止じゃ……」
「それはみっ……君も同じでは」
「それは……、……み?」
「すいませんオフレコでお願いします。……あのさ!君なんていう名前?」
「俺は……緑川リュウジ」
はい、確定。抹茶ソフトですね……。何このエンカウト率。これも、仕組まれたことなのか。それとも偶然か。
「あたしは花咲かな。見ての通り、雷門中の生徒!」
「えっと、雷門中って東京だよね。何で奈良に?」
「ほら、宇宙人って言うやつらに襲撃されたからさ。色々あって旅、なう!」
「……」
隠すことでもないのでそう言うと、緑川はショボンとした顔になった。まるで迷子みたいに。やっぱり罪悪感、あるよね。
大切な人のためであろうと、越えてはいけないラインはあると思う。ましてや誰かを傷つけなんて、絶対やっちゃだめだ。
けれど……気持ちはわからなくもない。失いたくないものがあるから、応えたいと思うんだ。
「……今から言うこと、独り言だから」
「え?」
「あたしさ、どうもエイリア学園の連中って宇宙人に見えないんだよねー。いたって普通の人間に見える。変なのもいたけど。
そうだとしても、学校壊したってことに変わりない。でも、事情があったんじゃないかなって。パッと見下っ端っぽいし。あたしは……許しちゃうかも。
想像だけど、本当はサッカーで学校破壊とか、そういうことはしたくないんだとあたしは思います!独り言終わり!」
ニカッと笑って、親指を立てる。知ってるから、かな。みんな程、怒りが湧かないのは。
同情かもしれない。それでも……気にしなくていい、怒ってなんかない。そう、伝えたかった。
「(まさか……)……あの、」
「あったッスーーー!!!」
壁山の声だ。例の黒いサッカーボールを見つけたようだ。よく響く声だ。そして携帯が、ゆみからのメールを着信。先に行くからはよ来いと。
「あ、ごめん。もう行かなきゃ。じゃ!」
「待って、花咲さん!」
「ん?どした」
「いや……また会える?」
「んーと、サッカーをやってれば、自ずと会えると思う」
「花咲さん、もしかして知ってるの……?」
「えっ」
やべえバレそう。
「なんのこと?あたしにはサッパリ」
「……」
「それと、かなでいいよ。名字で呼ばれるの、あんまし慣れてないんだ」
「……かな」
「そうそう。ていうか、その辛気くさい顔やめなよ。笑え笑え!」
「いたたたた!何するんだよ!」
「うん、いい顔になった」
「!」
「笑ってた方が可愛いよ。では、またね!」
「……また、ね」
さあて、集合場所まで全力ダッシュ!
大好きな父さんのためなら、どんな辛いことも耐えられた。例え世界中の人から憎まれようとも、演じてみせると思っていた。
それでも……もう1人の自分に向けられる憎しみは、途方もなくて。わかっていたはずなのに、苦しくて……痛かった。
雷門が奈良に来ることは、わかっていた。だから誘導のために、痕跡としてあえて黒いサッカーボールを残した。
そこで出会った雷門の選手である、彼女。きっと俺たちを憎んでる。そう思ってたのに、怒ることなく、笑った。それどころか、許すだって?
「笑えなんて……むちゃくちゃだ」
理不尽に引っ張られた頬。最後に笑ったのは、いつだっただろう。
家族は競い合い、蹴落とし合うライバルになった。新しい名前を貰って、様なんて付けて、呼んで。
次第に感覚は麻痺していって、悲しかったことさえ、忘れていた。
「可愛いって何だよ……」
男子に言う言葉じゃないだろ。
次に会う時は、きっと敵同士だ。だけど、また会いたいと思わずにはいられない。
こんな気持ち、はじめてだ。
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