イナズマ青春記
□第1話 トリップしました
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驚いた表情であたしを見るゆみとかなが、視界に飛び込んでくる。口を滑らせてしまったものは仕方ない。
…正直に言ってしまえば、このトリップはある意味"チャンス"だと思う。もう一度、サッカーに触れる為の。
なんとなく、感覚的にそう思えた。
そしてあたしたちはトリップしてきたこと、
あたしたちの世界には「イナズマイレブン」という超次元サッカーアニメがあるということ、
吹雪のことはその「イナズマイレブン」というアニメに、キャラクターとして出てくるため知っているということを話した。
「拾って貰った分際で、突然こんなこと言ってごめん。でも、本当のことなんだ」
青みがかったグレーの瞳に、不安げに視線を揺らす、自分の姿が移った。人間、異常事態になると、ここまで弱るものなのかと、何故か冷静に分析する。
そんなあたしが、彼の目にどう映ったのかは分からない。でも吹雪士郎は安心させるかのように微笑むと、「信じるよ」とたった一言、そう言った。
それだけで、スッと心に重くのし掛かっていた何かが、一瞬で無くなってしまったように感じた。単純で安い女だと笑ってしまう。
「トリップしてきたなんて大変だね、花咲さん」
「あー…あたしたちのことは、名前で呼んで。3人とも花咲だから」
「じゃあ、そうさせてもらうよ。僕のこともよかったら名前で呼んでよ」
「いや、流石にそれは」
「僕、りなさんみたいな子、結構タイプだよ」
「「おいっ!!!」」
安心したように力を抜いていたゆみとかなが、急にしゃっきりとした面持ちになった。
敵意を剥き出しにしてるし。…吹雪が驚いてるんですがそれは。
「ああ……ゆみさんもかなさんも、りなさんのことが大好きなんだね」
「「当然」」
「りなに手を出したら許さないんで、そこんとこよろしく」
「覚悟しろよっ」
「いややめろよ」
これでシスコンの自覚があるんだからなあ…。
そして、お互いのことをポツポツと話したところで、衝撃の事実が発覚した。
なんとトリップした拍子にか、体が縮んでしまっていた!つまりは、ポジティブに言うと若返った。
「アポ○キシン飲んだ訳じゃないのに!」
「おいこらかな」
「えっと、高校生が小学生になる漫画だっけ?」
「こっちの世界にもあるのか…」
それはそれで驚きだ。コ○ン君凄いな。いや別にアニメたまに見る程度の知識しかないけど。
まじまじとあたし達を見詰めた吹雪は、小さく呟いた。
「失礼だけど、高二には見えないや……」
「縮んでるからね」
中身はそのままとはいえ、顔立ちが幼くなってるんだから、寧ろこれで高二と思えたら凄いくらいだ。
このままでいたら、そのうち体に引き摺られて、思考まで若干幼くなりそうだな。
その後、せっかくなので見てみたいとかなが言い出し、白恋中に案内してもらいました。
休みの日だったらしく、誰もいなかったけど……。そして、サッカーをしました!
あれ、作文?
「…サッカーすんの?」
「やりたくなきゃやらなきゃいーじゃん、超次元サッカー!」
「……やるに決まってる」
「珍しく乗り気だね、ゆみ」
「準備はいい?」
「オッケーだよ!」
「いくよ!」
ボールを持った吹雪が、ドリブルでフィールドを駆ける。とりあえず思ったこと。
「「「(動き早っ!)」」」
満場一致だ。作中でも、元陸上部のエースの風丸に匹敵するか、それ以上と言われていたし、納得の速さと言える。
こっちにブランクがあるのは伝えてるし、ある程度の手加減はしているだろうが、流石の一言である。
でも、ブランクを言い訳にする気は毛頭ない。
「(絶対に追いつく!)」
地面を蹴って、なんとか並追い付いたところで、スライディングをかける。油断していたからだろうけど、ぎこちないながらもボールを取ることが出来た。
「っし!」
「へえ、速いね……」
「どうも」
手を振ってるかなにパスを出す。距離感が掴めなくて短かったけど、その分かなが走ってトラップした。
そして、一瞬考えるような素振りを見せた後、ゆみに向かってボールを蹴り出す。それを見た吹雪が、ある構えをとった。おい待ちやがれ、それって、
「アイスグランド」
「っ、マジですか…」
吹雪は必殺技を使い、ゆみからボールを奪った。
「(超次元サッカーやったことない人に必殺技使うか普通)ゆみ!大丈夫?」
「平気。…案外楽しいね、超次元だけど」
「ゆみ、」
「うわおぉうぅっ」
「あ」
「かな…」
氷で滑ったらしい。あんのバカ…。
そうしている内にも、時間は止まらない。吹雪が、マフラーに触れ、
「オレのすっげぇシュートみせてやるよっ!」
人格がアツヤに代わった。何で出てきたし!
「エターナルブリザードッ!」
猛吹雪を巻き起こしながら、シュートはゴールネットを揺らした。というか、ゴールごと凍ったのですが。
「すげぇだろ」
「確かに凄い…」
「ああいうの出来たら楽しいんだろうね」
「じゃあエターナルブリザード教えてやるから、ちょっとこっち来い!」
「え、待て!なんでそうなる!」
何故か意気揚々とした様子で、吹雪士郎否アツヤがあたしを引っ張る。助けを求めようとしたものの、「頑張れ」と棒読みで顔を逸らされた。
「裏切り者…!」
そして約1時間、みっちり練習したのであった。理不尽だ。
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