イナズマ青春記

□第1話 トリップしました
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こんにちは。いや、おはようございますかこんばんはになるのだろうか。花咲りなと申します。

よく分からない状態になっているので、こんな形でごあいさつです。さて、



「ここはどこなんだろう……」



今いるこの家、誰の家だ。現状を説明すると、気を失っていたらしく、目が覚めたら知らない家の布団に寝かされていたということだ。

というか、気を失う前、何があったんだっけ。……確か、2学期の終業式の帰り道を、幼馴染みと歩いていたんだ。






***


「成績よくて良かった…」

「ほんと、良かったよね!あたしなんか英語がやばくてやばくて」

「あのねえかな、留年だけは絶対にやめてよね」

「分かってるってば。大地はどうだった?」

「アヒルが行進してた」

「……つまり、2だらけだったと」

「流石颯、ご名答」

「懐かしいな、アヒルが2っての」

「おお、翼が喋った」

「ゆみは僕をなんだと思ってるの」

「ていうかねえ大地、留年したらアンタの大事なもの潰すよ」

「ちょっ、マジこえーよそれ!花梨が言うと冗談に聞こえねえ!」

「冗談じゃないからね」



わいわいがやがやぐだぐだと、話に花を咲かせていた時だった。視界がぐにゃりと歪んだのは。

風邪でも引いたのかと思ったけれど、咳や鼻水が出ているというわけでもなく、ただただ首を傾げるだけで、

異変に気づいたのは、幼馴染みだった。



「! お、おいりな!ゆみ!かな!足元見ろよ」


「「「ん?」」」



言われた通りに足元を見てみれば、大きな黒い穴がぽっかりと開いていて、まるでガラス張りの床の上に立っているような状態になっていた。

なんだ、これ。何この穴。こんなの、少なくとも朝の時点では無かった筈だ。でも、その穴がそこに存在しているのは、紛れもない事実だった。

どういった仕組みになっているから分からないけど、とりあえずこの上から退こう。言葉にしなくても、お互いに考えていることは手に取るように分かった。

そしていざ動こうとして、気づいたこと。体が、動かない。



「えっ、ちょ、動けないんだけど!」



かなの悲鳴染みた声に、ギョッとした花梨が手を伸ばす。その手が届く前に、



「「「うわぁぁあああっっ!!!」」」



足場は無くなって、あたし達は垂直にすとんと落ちた。






***


「そうだ、落ちたんだ。…で、ここどこよ」



得体の知れない穴に落ちたものの、特に怪我をしていないのを確認して、息を吐く。

1人で考えていても埒が明かない。隣で呑気に寝ているゆみとかなに、思い切りチョップを落とす。

驚いて跳ね起きた2人に、簡単に現状を話した。



「ほんとここどこよ」

「それが分かったら苦労しないって」

「…別の世界とか」

「「そんなまさか」」



あり得なくはない。でも流石にベタ過ぎるだろう。まるで下手なライトノベルや夢小説だ。

かなと口を揃えて否定した時、



「良かった、目が覚めたんだね」


「「「!」」」



小柄な男の子が、襖を開けて入って来た。



「大丈夫?」



ふわりと儚げな笑みを浮かべた少年。軽く首を傾げると、白銀の髪と、トレードマークとも言える首元のマフラーが揺れる。

…熊殺しや雪原の皇子などの異名を持ち、二重人格で、人気キャラ。落ちた人は何人いるのだろうかといえるキラースマイル。

ついでにCV宮……以下割愛。つまり彼は、



「「「(イナズマイレブンの吹雪士郎だっ!!!)」」」


「?」



心の中で大絶叫だ。ゆみが言ったのを否定した傍からこれか。おいおい嘘だろ?マジでトリップしたのか。

もちろんそんな事情を吹雪士郎が知っている筈もなく、彼は口を開いた。



「雪まみれで倒れてたから、急いで家に運んだんだ。風邪とかひいてない?」



……ああうん。これはモテる訳だわ。



「お、重くなかった?」

「全然大丈夫だったよ。僕の家の前に倒れていたしね」

「「「(うわ、邪魔じゃん)」」」

「僕は吹雪士郎。君たちは?」

「…あたしは花咲りな。助けてくれてありがとうございます」

「……同じく花咲ゆみです」

「花咲かなでっす。よろしく!」

「よろしくね。でも、どうして雪まみれで倒れていたの?」

「「「………」」」



何で、というと、あまりにも突然のことで、あたしたち自身もよく状況理解出来ていない。

あたしが冷静なのは、表面上には出してはいないものの、ゆみもかなも内心パニックだからだろう。だから逆に冷静になれた。

彼には言うべきだろうか、トリップをしてきたことを。…助けてくれた優しい彼を、巻き込んでもいいのだろうか。

顔を見合わせていると、何かを感じ取ったのか、「ごめんね」と吹雪士郎は謝った。…違う。そうじゃない。謝らせるつもりなんて、更々なくて、

心のどこかで、言わなきゃならないと思ったんだろう。



「実はあたしたち、この世界の人間じゃないんだ」

「!」



気づけば、あたしの口からは、そんな言葉が零れ落ちていた。




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