荒波少女in世界

□第3話 呪われた監督!
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次の日の練習。パスを回していると、ボールをトラップした一郎太に向かって、突然明王ちゃんが仕掛けた。

スライディングをもろに食らった一郎太は転倒してしまった。……今の角度、危なかった。流石にあれはやりすぎだ。



「明王ちゃん!流石にあれは危ないよ!」

「フン、あれくらい避けられなきゃ、日本代表なんてやってられないぜ」

「なっ」

「っ不動!今のはわざと後ろから……」

「いいぞ、不動!ナイスチャージだ」



やってきた鬼道の文句を遮るように、監督は明王ちゃんを褒めた。そんな監督を、みんな不信な目で見ている。

……世界を相手に勝つには、ああいうプレーも必要になってくるのかな。でも……。



「やっぱりやりすぎだよ。怪我をしたら、もとも子もないのに」

「お気楽過ぎんだろ。そんなんでスタメンを勝ち取れんのか?女子のお前が」

「っ……」



言葉に詰まった。守兄たちでさえ、レギュラーだとは思っていないと監督は言っていた。なら、あたしは……。



「美波、あいつの言うことは気にするな」

「ありがとう、一郎太。あたしは大丈夫だよ。一郎太も足は」

「平気だ」



一郎太はなんでもないように笑っていて、ホッとした。


夕方、西の空が茜色に染まってきた頃、一足先に練習を切り上げて、虎丸が帰っていった。

昨日もそうだったし、何か家の事情があるのかな。どこに住んでるかは知らないけど、毎朝雷門中まで通うのは大変だろうな。

あ、監督が明王ちゃんに何か話してる。何かあったのだろうか。鬼道を見ると、眉間に皺が寄っている。



「鬼道」

「どうした」

「眉間に皺が寄ってるよ」

「おい」



手を伸ばして触ると、振り払われてしまった。そしてどこかすまなさそうな顔をする。

鬼道が明王ちゃんのことを気にしてしまう気持ちも分かる。あたしだって、佐久間と源田がやられたことを忘れた訳じゃない。

でも、明王ちゃんのことを気にしてばかりいたら、逆に視野が狭くなる……と思う。多分。

その時、条兄の声が聞こえた。目を向けると、条兄の呼び掛けを無視してリュウジが上がっている。どこか焦っているみたいだ。

そんなリュウジは隙が多くて、士郎くんがスライディングでカットした。



「おい緑川、さっきから何1人でやってんだ。パスだって言ってるだろ。……なんだよ、ちょっと待てよ!」

「おい綱海、よさないか」



咎める言葉にもフイと顔を背けて、リュウジは行ってしまう。機嫌を悪くすると条兄を土方が宥めて、リュウジを壁山と栗松が心配していた。

……合宿は始まったばかり。だけど、思ってた以上にチームはなかなか纏まらない。問題は、明王ちゃんだけじゃなさそうだ。


練習が終わって、夕飯まで各自自由時間になった。疲れてはいるけど、なんだか休む気にはなれない。

守兄は一郎太、壁山、栗松と雷雷軒に行くと言っていた。あたしもついていけばよかったかな。

でもせっかく秋たちが夕飯を作ってくれるんだから、入らなくなると困るし。中学生男子の食欲って凄いや。



「あ、そうだ」



秋たちの手伝いをしに行こう。3人で選手全員分用意するのは大変だろうなって、前々から思ってたんだ。

1階に降りて調理場に行くと、豪炎寺とヒロトもいた。



「あ、2人も手伝い?」

「そういう美波もか」

「うんそう。豪炎寺は知ってたけど、ヒロトも料理出来るんだね」

「お日さま園で、たまにね」



そう言ってヒロトは笑った。……それは、いつのことなんだろう。

思えば、あれから日本代表になるまでの3ヶ月、ヒロトたちがどう過ごしてきたのかを知らない。聞けることでもない。

慕っていた吉良さんが逮捕されて、何年も積み重ねてきたことが、何もかもが終わって。ヒロトは、何を思ったんだろう。



「美波ちゃん、大丈夫?」

「っえ、あ、ううん!何でもないよ!」



急に黙ったから、心配させてしまった。そうだ、手伝いに来たんだった。



「えーと、この野菜切ればいい?」

「ありがとうございます、美波さん」

「どういたしまして。それにね、冬花さんと話したかったんだよね」

「私、ですか?」

「そうそう。全然話してなかったから」



監督の娘で、守兄とも知り合いみたいで。冬花さんは、守兄のこと覚えてないみたいだけど……。



「あ、冬花さんって呼んで大丈夫だった?」

「はい。あの、美波さんって呼んでいいですか?」

「うん!ところでさ、冬花さんから見た監督ってどんな感じかな」

「お父さんですか?……寡黙だけれど、優しいんですよ」

「へえー」



監督って口下手だったりするのかなあ。日本代表のことを考えてくれてるのは、なんとなく分かるし。

何はともあれ、冬花さんとは仲良くなれそう!



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