荒波少女in世界

□第3話 呪われた監督!
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練習が始まった。鬼道がリュウジからボールを奪って、パスを出す。受け取った一郎太がヒロトと栗松を抜く。それを条兄が奪って、ヒロトへ。



「いくよ、円堂くん。――流星ブレード!」

「正義の鉄拳!」



弾かれたボールは地面に落ちて、回転している。どれだけ回転をかけてたんだろう。威力が完全に殺せてはいない。



「やっぱ凄いな、ヒロトは」

「円堂くんもね」



褒め合う2人はまさしくライバルって感じだ。ヒロトが笑ってサッカーを出来るようになって本当に良かったと、改めて思う。

選考前の練習は別々だったから、みんなのプレーを見るのは本当に久しぶりだ。みんな、強くなってる。……あたしも、負けてられない!

そんな中、飛鷹が空振りした。口笛を吹きながら髪を整えている。……拘りがあるのかな?



「飛鷹!こっちにパス!」

「お、おう!」

「っと」



なんとかトラップ出来たけど、思うように蹴れてないみたいだ。飛鷹の蹴り方はなんだかぎこちない。監督に厳しいことを言われたばっかりだし、上手く動かせてないのかな。

一郎太にパスを出すと、3人がかりのマークをつけられた。すかさず鬼道の指示が飛んで、土方へ回す。そこに飛び込んできた虎丸が、ボール奪った。

ゴール前に持ち込んで、そのままシュートを打つと思いきや、ボールはヒロト、そしてリュウジへ。



「決めるぜ!」

「そうはさせないっス、ザ・ウォール!」



リュウジのシュートを壁山が弾いた。そのこぼれ球を拾った条兄がゴールを狙うも、また壁山が防ぐ。うん、いい動きしてる!

今度はあたしもだと必殺技を使おうとした時、監督からストップがかかった。どうしてもっと前に出ないのかと、壁山を怒鳴りつける。



「それから風丸!」

「っはい!」

「なぜ土方にパスを出した」

「え……何故って」

「鬼道が言ったからか。お前は鬼道の指示がなければ、満足にプレイもできないのか!」



言うだけ言うと、監督はベンチの方へ戻っていった。

突っ立っているだけがディフェンスでではない。守ることしか考えてないディフェンスなど、私のチームには必要ない、か……。

選考の時、ディフェンス力だけじゃダメだって考えたのは、やっぱり間違ってなかった。

みんな努力してる。だからあたしは、もっともっと、みんな以上に頑張らないといけない。やってやるんだ!



「たあああっ!」

「!」



ボールを持つ豪炎寺にタックルをかける。あたしのタックルの威力なんてたかが知れてるけど、不意討ちには十分だ。隙が出来た。

そのまま上がってロングシュート。立向居に正面から止められてしまったけど、まだまだこれからだ!



「ノってんな美波!俺もやってやる!」

「来いっ!」



世界相手に、戦うんだ!




***


練習が終わって、各自着替えて食堂に集合になった。ふらふらになりながら廊下を歩いていると、丁度豪炎寺と士郎くんも出てきた。



「……あ、2人共。お疲れ」

「ああ」

「お疲れ様。……大丈夫?」

「あはは……。流石に疲れたなあ」

「まだ初日だぞ」

「そういう豪炎寺だって疲れたって顔し待って痛いほっぺ引っ張らないで」



抵抗すれば、手はすぐに離れていった。擦ってくれる士郎くんの手が冷たくて気持ちいい。

食堂に行くと、守兄とリュウジが机に突っ伏していた。壁山もぐったりしている。



「疲れた……」

「まさか練習がこんなにハードだなんてさあ……」

「俺、もうくたくたっス……」



合宿はまだ始まったばかり。でも、初日からここまで大変だと思ってなかった。甘く見てた。監督が吹けば飛ぶ紙切れ、と言ったのも納得だ。

みんなも監督のことを考えていたみたいで、ヒロトが守兄に監督の話を振った。守兄は、ちょっと変わってるけど、思ったことをはっきり言ってくれるいい監督だと言う。

確かにそうだ。言い方は厳しいけど、指摘の数々は的を射ていて、あたしたちのことをよく見ていることが分かる。



「きっと、俺たちにはまだまだ足りないところがあるんだよ!世界を目指すためにはさ」

「そうだね。代表に選ばれたからって、甘く見てた。今この瞬間も、誰もが努力してるんだよね」



そう言うと、何故かみんなが黙り込んだ。



「……どうしたの?」

「いや……、美波も色々言われてただろ」



ちょっとだけばつが悪そうな一郎太。気にすることないのに。



「大丈夫!逆に燃えてきたくらいなんだから!」

「本当に?」



間髪入れずに守兄が聞いてきた。ドキッとしたのが、表情に出てないといいけれど。



「……あれくらいで、へこんでいられないよ。そんな暇ない。へこんでる暇があったら、練習する」



練習してて、改めて思った。中学生になってから顕著になってきていた、性差。

キック力は豪炎寺や士郎くん、ヒロトに及ばない。テクニックは鬼道や明王ちゃんの方が上。ぶつかり合いも空中戦も、壁山、条兄には敵わない。

あたしには、何が出来る?あたしに出来ること。それを見つけないと、チームには、いられない。

みんな心配そうにあたしを見てる。そんなに落ち込んでるように見えたのかな。そんなこと、ないんだけど。



「大丈夫。あたしは頑張れるから、みんなも頑張ろう!ね?」

「……無理はするなよ」



心配が滲む声音だ。……そんな、不安そうな顔しないでよ、一郎太。



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