荒波少女in世界

□第1話 集結!日本代表!!
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「もう1人いるんだ」

「もう1人?」



ヒロトを視線の先を見ると、黄緑色の髪をポニーテールにしてる子がいた。何故か、なんというか、暗いオーラを背負っているような。



「何だ、この不気味なオーラは……」

「不気味なオーラって」



流石にそれはないよ、シャドウ。誰かなんて分かってしまったあたしからすると、彼は本来暗さなんてどこにもない。

あまりにも雰囲気が違いすぎるせいか、誰も気づいてないようだ。そりゃ、あれはキャラを作ってたんだもんね。

ずっと心配してた。刑事さんから色々聞いて、大丈夫だってことは知ってた。でも、"追放"された時の表情が、あまりにも鮮明に残っていて。



「ふ……失敬だな。地球にはこんな」

「リュウジーーーッ!」

「え、ちょ、美波!?」

「あ」



床を蹴って駆け寄った拍子に、何もない所で躓いて、勢いそのままに突っ込んでしまった。

端から見たら、抱き付いて押し倒したようになっている。しまった。……まずい、守兄と一朗太の視線が非常に痛い。

冷や汗がだらだらと流れ出す。待って、士郎くんもなんか、顔が怖い。



「……美波の知り合いか?」

「……あたしだけじゃなくて、一朗太もみんなも知ってる人だよ。一応」

「だから今から自己紹介しようって思ってたんだけどな……」

「ごめん」



平静を装って、いそいそとリュウジの上から退く。立ち上がったリュウジは、気を取り直してと1つ咳払いをした。



「地球にはこんな言葉がある。男子三日会わざれば刮目して見よ!……ってね!」

「あ、そのフレーズ!」

「分かったでヤンス!」

「……あ!」

「レーゼ!」

「エイリア学園ジェミニストームのキャプテン!」

「誰だ?」



騒然とする中、条兄だけが首を傾げた。立向居が知ってるみたいなのは、恐らくテレビ中継でも見たんだろう。

リュウジたちは一番最初の敵だったから、最後に入った条兄が知らなくて当然か。あの頃の条兄は、サッカーのサの字も知らないようなもんだったし。



「やだなあーもう、それは宇宙人ネーム!俺には緑川リュウジって名前がちゃんとあるんだから!」

「何が緑川だ!学校壊しやがって!みたいな!」

「いやあ、もうほんと、色々諸々申し訳ない!ここだけの話、結構頑張って宇宙人のキャラ作ってたんだよね〜」



キレた武方が突っ掛かっていく。軽く謝罪して明るく振る舞うリュウジだけど、きっと、まだ気にしてるんだろうな。

だって、一瞬だけ表情が消えたから。



「まるで別人だ……」

「だってこっちが素だもん」



信じられないと言わんばかりの一朗太にそう返す。リュウジ本人が今言ったけど、あれは作ったキャラなんだし。



「そうそう美波の言う通り!……というわけで皆さん、終わりよければ全てよし!これからは緑川でよろしく!」

「まーたまた諺っス」



辺りに笑いが巻き起こる。心配だったけど、ヒロトもリュウジも、思ったよりも直ぐに馴染めそうで良かった。

「えっと……」という声が聞こえて振り向くと、所在無さげに瞳を揺らしながら、虎丸が立っていた。肘で守兄を小突く。



「……あ、そうだ。みんなに紹介するよ!宇都宮虎丸。監督に呼ばれた1人なんだって」

「初めまして、虎丸と呼んで下さい!」

「ポジションは?」



特に挨拶をすることもなく、すかさずポジションを聞く辺り、天才ゲームメーカーの鬼道らしい。



「キーパー以外なら、どこでもオーケーです。皆さんとサッカー出来るなら、どこでも!はい!」

「キーパー以外か!凄いね!ユーティリティープレイヤーなの?」

「いえ、メインは一応、フォワードなんですけど……」



苦笑をしながら、虎丸は視線を逸らした。……何か言いたくない理由があるのかもしれない。



「なあ、円堂。1人どーにもノリの悪い奴がいるんだけどさ、お前、知ってるか?」



難しいそうな表情をしながら条兄が目を向けた方を見ると、隅で壁に寄り掛かるように立って、櫛で髪をとかしている男の子がいた。

ちょっと目付きが悪くて、こっちの様子には我関せずって感じだ。てか、え?あれリーゼント?凄い、始めて見た。

守兄の知り合いでもなくて、お前は?という視線が注がれて、首を振る。そうほいほい知り合いがいる筈がない。三ヶ月前のことについては例外だ。



「俺、円堂守。君も、響木監督に呼ばれたの?」

「……だったら?」

「まともに挨拶も出来ねえのか!」

「どうしようと俺の勝手だろ」



「なんだコイツ!」と短気な染岡が食って掛かる。一触即発かと思ったけど、条兄が顔を顰めながら「よせよ」と宥めた。



「あたしは円堂美波。円堂守の双子の妹!ね、名前くらいは教えてくれて欲しいな」

「……飛鷹征矢」



ぶっきらぼうにそう言うと、止めていた手を動かして、また髪を梳かし始めた。



「よろしくな、飛鷹」

「……よろしく」



悪い奴……では無さそうだ。


みんなの輪に戻って、近況報告も兼ねた談笑をする。時折ドアの方を見ても、監督が来る気配はない。

ここに集められたのは、中学サッカーで名の知れているプレイヤー。虎丸と飛鷹は今日初めて顔を合わせた訳だけど、実力はどれ程なのか。

それにしても、"敵"だったヒロトやリュウジが呼ばれてるなら、



「(明王ちゃんが来ててもおかしくない、かも……)」



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