荒波少女

□第40話 その向こう側
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漫遊寺中につくと、いつか破壊されてしまった校舎はちゃんと直っていて、垣田さん達が出迎えてくれた。



垣「ところで木暮は?」

円「木暮ならそこに…」



守兄ぃが指差した方の茂みに、特徴的な髪型がチラッと見えた。漫遊寺の人達がそっちに駆け寄る。


その瞬間、ドシャッという音と共にその姿が消えた。てか地面の穴に落ちた。これってまさか、



「落とし穴…」

垣「こ、木暮ぇええ!」

木「うっしっし、挨拶代わりだよーっ!」

春「木暮君!」



最早見慣れてしまった春ちゃんと夕弥の鬼ごっこが始まる。足をちょっと出してみたら、簡単に転けた。



木「ってえ!」

「隙だらけだよー」

春「こーぐーれーくーん?」

木「ちぇ、いいじゃん最後くらい」



夕弥の言葉に、改めて別れを実感する。ふてぶてしい動作で突き出された、背番号6の、雷門のユニフォーム。



木「…返すよ。もう雷門には俺じゃない6番いるだろ。代わりみたいなもんだったし」

円「何言ってんだよ木暮!木暮は代わりじゃないし、木暮の代わりになる奴もいない!」

「そうだよ、夕弥。離れたってあたし達は仲間なんだから、返さなくてもいいよ」

木「キャプテン…!」

「あたしは!?」



後ろを向いた夕弥が、目元を擦る。なんというか、夕弥はひねくれてるから、そういうの見せたくないんだろうな。



「最後くらい素直に…」

木「…ていっ」

「っ、ぎゃあああああ!!!」



投げつけられたのは黒光りする何か。バッと後ずさると、足元が崩れ、落ちた。…落とし穴だ。



綱「大丈夫かー?」

「ごめん、条兄ぃ…」



条兄ぃに引っ張り上げてもらうと、夕弥は影田に説教されていた。どうやら"アレ"の玩具を投げられたらしい。



影「木暮、謝りなさい」

木「やなこった!」

影「木暮っ!」

「い、いいよ!夕弥のイタズラには慣れてるし、寂しいんだろうし」

木「なっ、違うし!」

「えー、そうかなー?」



噛みついてくる夕弥を、笑いながらからかう。一瞬言葉を詰まらせた夕弥は、そっぽを向いて声を上げた。



木「さ、サッカー続けてたら、また会えんだろ!」

「!」

春「木暮君…」

木「ふ、ふんっ。今度会う時は、もっと凄くなった俺を見せてやるからなーっ!」



そう言って猛スピードで脱兎の如く校舎へ走っていって、その後ろ姿は見えなくなった。


やっぱり最後まで素直じゃない夕弥に、みんなで顔を見合わせて、笑った。


挨拶をして、漫遊寺中を後にする。名残惜しげに後ろを振り返る春ちゃんに、あることを思い付く。



「ねえ春ちゃん。もしかして夕弥のことそういう意味で好きなの?」

春「まさか」

「即答…」

春「でも、木暮君煩かったから、静かになるなーって」



そう言って笑った春ちゃんは、「先に行きますね!」と階段を駆けていく。その後ろ姿を、鬼道が難しい表情で見ていた。



「どうかした?」

鬼「……いや、」




***


大阪について、観光だとナニワランドに行った。一之瀬は相変わらず振り回されていて、リカに強制的に観覧車へ連れていかれた。


守兄ぃも塔子に誘われて乗っていたんだけど、それを見た秋となっちゃんは口元をひきつらせていた。


…ほ、頬ちゅーの時もそうだったけど、これはもしかして、もしかするやつなのだろうか。



「半田半田!もしかして秋となっちゃんて」

半「今頃気づいたのかよ」

「えっ」



曰く、分かりやすいだとかなんだとか。マックスにも呆れられた。仕方ないじゃん。


そして、



リ「ぜぇーったい離さへんで!」

一「ええ!?」



ちゃっかりとエプロンを着せられ、焦ったような表情の一之瀬に助けてくれと視線を向けられたけど、何を言えばいいか思い付かない。


ナニワランドを出て、リカのとこでお好み焼きを食べて、大阪キャルズCCCとちょっとサッカーして、次は福岡だ!


…ってキャラバンに乗ろうとしたら、一之瀬がリカに捕まった。さっきから同じようなやり取りばっかだ。



一「だから俺はここにはいられないんだって!ちょっと土門!」

土「…頑張れよ」

一「う、半田!マックス!」

半「悪い、巻き込まれたくない」

マ「面白そうだしこのまま見させてもらうね」

一「そんな!」


「…どうすればいいのかな?」

鬼「見なかったことにしておけ」

「え」

風「豪炎寺もたこ焼き披露してくればいいじゃないか」

豪「いや、いい」



立向居を見たら、困ったような表情をしていた。時間結構切羽詰まってるし…どうしよう。



塔「毎日電話するとかそんなんでいいだろ…」



疲れたようにポツリと塔子が呟いたのに、リカが物凄いスピードで反応した。…目がギラギラしてる。



リ「せやなあ、ダーリンに迷惑かける訳にもいかへんし、それで我慢するわ」

一「よかった…。でもそれって俺だけ毎日苦労するってことじゃ…」

綱「ま、諦めろってことだな!」



条兄ぃに首に腕を回された一之瀬が、ガックリと項垂る。そんなこんなでリカ達に見送られながら、福岡へと出発した。




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