荒波少女
□第40話 その向こう側
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それからの日々は、あっという間だった。
財前総理に表彰されて、雷門中で合宿して、たまには思いっきり遊ぼうって、皆で出かけて…。
まさか鬼道があんなに料理が上手いなんて知らなかった。帝王学って凄いな…。豪炎寺がたこ焼きとか、意外だったし。
肝試しして(泣きかけた)、イナズマキャラバンを掃除して、いつもと違うポジションでサッカーしてみたり。
楽しい時間は過ぎるのが早いっていうけど、本当にその通りだ。
だから、物凄く寂しい。
士郎君達が帰る前日、買い物帰りに寄った鉄塔広場にいた守兄ぃ、豪炎寺、士郎君と他愛ない話をしながらぶらぶらと歩く。
サッカーのこととか、稲妻町のこととか。最終的に、最後の夜ってことで、うちに集まって皆で夕飯を食べることになった。
夕飯の準備はあたしや秋達だ。…なっちゃんが変なものを入れないように、ちゃんと見てないとね。
「寂しくなるね…」
春「やっぱり本命は吹雪さんだったりするんですか?」
「いや意味分からないんだけど…」
あたしはまだ恋愛感情とかよく分からないし、今は正直どうでもいいからサッカーに打ち込みたい。…逃げみたいな考え方だけど。
ぼんやりと完成した料理を見ながら、そんなことを考えてたら、台所にひょっこりと一郎太が顔を出した。
春「じゃあお邪魔なようなので私達はこれで!先輩!行きましょう!」
夏「え、ええ…」
秋「頑張ってね、風丸君」
風「何を頑張れっていうんだ…」
そそくさと春ちゃんが秋となっちゃんの背中を押して、お皿を持って出ていく。台所に一郎太と2人きり。
なんとなく気まずくて、下を向く。あの日から、合宿中もそうだったけど、…一郎太の顔をちゃんと見れない。
一郎太のことは大好きだ。でも、一郎太があたしに向ける好きは、あたしとは違う。それをやっと理解した。
それはいい。でも……。
……いやいやいや。よくよく考えればあの時一郎太は敵だったし、エイリア石使ってたし、うん!ノーカンだノーカン!
「……」
とりあえず結論づけたところで、この雰囲気が変わることはなかった。何を話そうか考えてたら、一郎太が先に口を開いた。
風「…ごめん」
「え?」
風「ほら、その……ダークエンペラーズの時、さ」
ばつの悪そうな顔をしながら、またごめんと言われる。……あ、暴力的なプレーのことか。吹っ飛ばされまくったし。
「大丈夫だって!皆一郎太達のこと責めてないからさ!」
風「でも」
「でもじゃない!合宿の時もだけど引き摺りすぎ!あたしや皆が言ってるんだから、それでいいの!しつこい!くどい!」
風「…やっぱり美波には敵わないな」
苦笑した一郎太がお皿を持つ。運ぶのを手伝ってくれるらしい。
「……あの、さ」
風「何だ?」
「恋愛感情とかはよく分からないけどさ、あたしは一郎太のこと大好きだからね」
風「…ああ」
結局逃げに走ったあたしの答え。
それでも、「なら、分かってもらえるように頑張らないとな」と笑った一郎太は、いつものあたしの大好きな一郎太だった。
「(……優しいなあ、一朗太は)」
散々待たせたのに、また待たせるなんて、あたしは酷い奴だ。
……いつか、ちゃんと一郎太の気持ちを受け止めて、答えを出そう。そして、伝えないと。
***
少「最初は京都の漫遊寺中なんですよね!行ってみたかったんです!」
半「俺大阪行ったらお好み焼きとか食いたいな!」
「じゃあリカのとこ行こ!美味しいから!」
リ「特別にまけたるで!ダーリンもウチと一緒に作ろ!」
一「あはは…」
マ「ふーん、これがイナズマキャラバンか」
円「ああ!こいつも俺達の仲間だ!」
サッカー部の看板がかけられているキャラバンのボディを、守兄ぃが軽く叩く。
全国を回るあたし達を乗せてくれて、星の使徒研究所を脱出する時にもお世話になったイナズマキャラバン。
そんなキャラバンに、今度は皆揃って乗るんだ。
綱「かーっ、これで最後って思うとなんとも言えねえな!」
吹「そうだね。でも、サッカーを続けていれば、きっとまた会えるさ!」
木「そーそー。意外とまた宇宙人が来たりして〜」
塔「うわー、それだけは勘弁してくれよ!」
「あはは、同感!」
瞳子監督やヒロト達は、今頃何してるのかな…。サッカー、やってるのかな。
豪「いつまでそこに立ってるつもりだ」
「へ?」
周りを見たら、皆もうキャラバンに乗り込んでいた。古株さんも準備オッケーだ。
鬼「もうお前だけだぞ」
「はいはいっと。あ、あたし染岡の隣ぃー!」
染「何で俺なんだ!」
「いいじゃん。士郎君小柄だし、3人でも余裕だよ」
染「そういう意味じゃねえ!」
目「うわあああ!」
宍「何なんだよこれ!」
春「木暮君ーっ!」
木「うししっ」
キャラバンが一気に騒がしくなる。そしてあたし達を乗せたキャラバンは、ゆっくりと動き出した。
影「ふふっ…このキャラバン、目立つね…」
土「影野…」
栗「びっくりしたでヤンス…」
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