荒波少女
□第38話 激突!雷門VS雷門!!
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ばさりと、一朗太はマントを脱ぎ捨てた。
風「俺のスピードとパワーは桁違いにアップした。この力を、思う存分に使ってみたいのさ!」
円「ちょっと待てよ!エイリア石の力を使って強くなっても意味がないだろ!」
「っ……そうだよ、強さは努力して身につけるものだ!」
詰まっていたものを吐き出すように息を吐いてから、数歩踏み出して、守兄ぃに同調する。
じ、と一朗太の視線を感じて思わず半歩下がった時、それは違うと栗松が声を上げた。
それに続き、染岡がエイリア石の力が気に入ったと言い、豪炎寺と士郎君を睨み付ける。
染「もう豪炎寺にも吹雪にも負けやしねえ」
吹「染岡君…!」
豪「っ、」
円「お前ら…」
皆、強さにこそ意味があるという考えを持ってしまっていた。皆、変わってしまった。
研「貴方達にももうじき分かりますよ。誰もが取りつかれるその魅力…それがエイリア石!」
「っ、誰がそんな石なんかに!」
研「果たしてどうでしょうかね。特に、円堂美波さん。心の弱いに貴女はね」
「な、ん…」
雷門とエイリア。仲間と友達の間で、ぐちゃぐちゃに考えていた時を思い出す。…ダメだ、挑発に乗っちゃ。
「そうだよ。あたしは弱い。でも、皆がいたから、それを受け入れて、強くなれたんだ!」
風「……やっぱり凄いな、美波は。俺とは違う」
「いち、」
風「雷門イレブンはダークエンペラーズの記念すべき最初の相手に選ばれた。さあ、サッカーやろうぜ、円堂、美波」
手を差し出したその姿が、まだ雷門が弱小と呼ばれていた頃、助っ人になってくれると言ってくれた時の姿と、重なった。
ぱん、と再び乾いた音が響く。今度は守兄ぃが、叩(はた)いた音だ。
円「嫌だ。こんな状態の、お前達と試合なんて!」
「あたしだって嫌だ!」
鬼「ああ。お互いに得るものは何もない」
仲間同士がぶつかり合う、意味のない試合。嫌だという気持ちは、皆同じだった。
でも、試合を断ればまた学校を破壊すると、手始めに新しくなったばかりの雷門中をまた破壊されると言われた。
ボールに足をかけて、ニヤリと悪どい笑みを浮かべる染岡。
脅しをかければ拒否することは出来ない。選択肢なんて、最初から無かったのだ。
後ろを振り向けば、響木監督が静かに頷いた。辛いけど、やるしかない。
円「っ……分かった。勝負だ!」
勝ってエイリア石を力を使うなんて間違ってるんだって、また一緒にサッカーやろうって、伝えるんだ。
風「円堂。人間の努力には限界があることを教えてやる」
「…なら、あたし達はエイリア石を使うのは間違ってるって教えてやるよ」
風「…」
一郎太の表情がどこか寂しげに見えたのは……気のせいだ。
ベンチに集まって、試合に備える。ベンチに座って靴紐を結び直し、靴下を捲ると出てきたのは、色褪せたミサンガ。
これを一朗太に貰ったのは、何歳の誕生日だっただろうか。少なくとも、小学生だったけれども。
貰ってからずっとつけっぱなしで、もうすっかりボロボロだ。それでも、ミサンガが切れることは無かった。
――願わくば、
「(一朗太と、染岡達とまた、楽しくサッカーが出来ますように)」
息を吐いて、靴下を上げる。壁山を見れば、あのサッカー部の部室の看板を持っていた。
壁「皆…忘れちゃったんスかね」
「忘れちゃったなら、思い出させればいんだよ!あの頃を!」
円「…そうだよ。俺達はあんなに頑張ってサッカーを続けてきたんだ。
だから、エイリア石なんかに潰される筈がない!仲間は、ずっといつまでも仲間なんだ!」
一「取り戻そう、本当の皆を!」
豪「アイツらは、俺がサッカーを諦めかけた時、傍にいれくれた仲間だ!今度は俺達が!」
鬼「ああ!」
リ「ウチも協力するで」
綱「俺達も、雷門イレブンだからな!」
吹「ああ、もちろんだよ」
立「俺もやります!」
木「俺だって、雷門イレブンだ!」
この旅で新しく仲間になったしろ君、塔子、夕弥、リカ、立向居、条兄ぃ。皆心は同じ、雷門イレブンなんだ!
響「お前達、準備はいいか」
円「響木監督」
響「アイツらに見せてやれ。お前達のサッカーを!」
『はい!』
皆で手を重ねて、意気込む。
円「さあ行くぞ!皆!」
『おうっ!』
それぞれポジションにつく。キャプテンマークを腕に付けた一朗太は、フォワードの位置にいた。一郎太が、フォワードに…?
ポジションを変えたというのだろうか。けどフォワードなら、さっきの挨拶代わりと放った強力なシュートの、辻褄が合う。
この試合はジェネシスとの試合以上に辛いものになる。それでも、もう逃げたりしない。
本気でぶつかり合って、勝たないと。
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