荒波少女

□第38話 激突!雷門VS雷門!!
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目を疑った。


信じたくなかった。


どうして、こんなことになってしまったんだろう。






研「ようやく私の野望が実現する時が来たのです」



喜びに打ち震えるかのように両腕を広げながら研崎はそう言うと、一朗太に目を向けた。


視線を受けて、一郎太が懐から取り出したのは、最早見慣れてしまった、あの黒いサッカーボール。



風「再会の挨拶代わりだ」



そう言って一郎太が打ったシュートはとても強力で、受け止めようとした守兄ぃは後ろに吹っ飛んだ。


突然だったとはいえ、守兄ぃが押し切られるなんて。絶句するあたし達を見た一郎太の口元が、緩やかに弧を描く。



円「風丸…」


風「俺達と勝負しろ」


円「なっ…」



エイリアのによく似たユニフォームの下から漏れたのは、エイリア石の妖しげな光。


どうして?エイリア石は、あの爆発に巻き込まれて……。…まさか、研崎が持ち出して、一朗太達に?


恭しく手を胸に当てた研崎が、口を開く。



研「皆さんにはお礼を申し上げます。おかげであの無駄極まりないジェネシス計画に固執していた旦那様を――、


吉良星二郎を片付けることが出来たのですからね」


鬼「まさかあの爆発は!」


研「お察しの通り、私がやったのです。エイリア石を私だけのものにするために」


『!』



今度は違う意味で言葉を失った。エイリア石の為に、こいつは吉良さんに取り入ったんだ。


あの星の使徒研究所での爆発を起こしたのが研崎で、エイリア石を狙っていたなんて。なんて奴だ。


にたりと笑った研崎は、「エイリア石の本当の価値を分かっていなかった」と言い放つ。



研「――ですから、この私が正しい使い方で、究極のハイソルジャーを作り上げたのです」


円「まさか、風丸達が!?」


研「その通り。それが、ダークエンペラーズです!」


大仰に両腕を広げる研崎に、怒りが募る。全部利用してたんだ。あたし達雷門を、吉良さんを、ヒロト達を………!!!


ましてや今度はエイリア石を一朗太や染岡達に使うなんて、絶対許さないし、許せない!


一朗太と視線がかち合う。細められた目で見つめられ、言おうとした言葉が、喉に引っ掛かったように押し止められる。


その鋭い目付きは、狂気をも孕んでいるように思えた。



研「今日は我がハイソルジャーの本当の力を証明しに来たのですよ。彼らが君達雷門イレブンを完膚なきまでに叩きのめします」


円「っ、こんなの嘘だ!」



一朗太達が、敵。その事実を振り切るように、駆け寄る守兄ぃの傍に行こうとしたら、鬼道に腕を掴まれた。



「な、鬼道!」

鬼「…やめておけ」



どこか辛そうなその表情に、全身から力が抜けていくのを感じた。そうだ。鬼道はこれで二度目だ。


真・帝国学園で再び影山の元についた佐久間と源田を見た時の、鬼頭の絶望した表情は、今もしっかりと脳裏に焼き付いている。


あたしの腕を強く握ってくる手に触れると、「すまない」と鬼道はするりと手を離した。


若干赤くなった腕を、心配そうに近寄ってきた士郎君が、そっと撫でる。これくらい、平気なのに。



円「お前達は騙されてるんだろ?なあ!風丸!」



表情を変えずに、一郎太が手を差し出す。


それを顔を強張らせながら守兄ぃが取ろうとすると、パンっと乾いた音を響かせながら、その手を叩いた。



円「風丸…」

風「俺達は自分の意思でここにいる。…このエイリア石に触れた時、力が漲るのが感じだ。求めていた、力が。


…俺は強くなりたかった。強くなりたくても、自分の力では越えられない限界を感じていた。でもエイリア石は信じられない程の力を与えてくれたんだ…!」



エイリア石に酔いしれるよな、恍惚とした表情。こんな一郎太、見たことがない。


寒気がしたのと同時に、一朗太の言葉が深々と突き刺さった。あの日のことがフラッシュバックする。


一朗太なら大丈夫だって、そう思ってて、否定されて、サッカーに向き合えなくなったあの日。


エイリア石に手を伸ばしてしまう程追い詰められていただなんて、何であの時に気づいてあげられなかったんだろう。


不甲斐ない自分に腹が立つ。大事な、幼なじみなのに。


一朗太の弱音を受け止めるのに精一杯で、こんなにも力を欲していたなんて、気がつかなかった。



「(……まただ)」



また、止めることが出来なかったんだ。




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