荒波少女
□第37話 終わりなき脅威!
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円「終わったんだな…」
「そうだね…」
崩れゆく星の使徒研究所を静かに見ていれば、暫くして、何台ものパトカーが来た。
聞き耳をたてていると、ジェミニストームやイプシロンのメンバーは、ちゃんと保護されたとのこと。
風介と晴矢は、ダイヤモンドダストとプロミネンスはどうなったんだろう…。
「刑事さん!ダイヤモンドダストとプロミネンスのメンバーは…!」
鬼瓦「それが…あそこにはいなかったんだ」
「え…!」
鬼瓦「恐らく別の場所にいるんだろう。何、心配するな。必ず見つけ出す。その時は連絡しよう」
「はい…」
いなかったってことは、爆発には巻き込まれてないって事だよね…?無事に、どこかにいるといいんだけど…。
……心配することないか。2人共バカな訳じゃないし、なにより強いんだから。サッカーを続けていれば、また会える。
振り向くと、岩に腰をかけて、俯いているヒロトが視界に飛び込んできた。歩いて行って、しゃがみこんで、視線を合わせる。
「ヒロト」
グ「美波、ちゃん…」
「お疲れ様」
グ「っ、ぁ…」
試合が終わった時から思ってた。お疲れ様って言ってあげたいって。きっとヒロト達のことを、世間の人は責めるだろうから。
エイリア学園は、沢山の事をしてきた。各地の学校を破壊して、財前総理を誘拐して、日本中を騒がせ、人々を不安にさせてきた。
だからせめて、あたしだけでも、頑張ったヒロト達にそう言いいたかった。
大好きな吉良さんの為に頑張ったんだって、真相を知っているのは、一握りの人間だけだから。
抱き締められたのを、抱き締め返す。あたしのユニフォームに深い染みが出来て、小さな嗚咽が聞こえた。
グ「本当に、ありがとう…」
「うん…」
……守兄ぃの悲鳴が聞こえたような気がするけど、多分気のせいだ。
ヒロトが離れた時、ユニフォームのポケットにハンカチが入っているのを思い出した。
ハンカチといっても、自分のだ。キャラバンはすぐそこだし、ヒロトに借りたのを取りに行ってもいい。でも、
「はい」
グ「え…?」
「これでちゃんと拭いて、ほら」
グ「…優しいね、美波ちゃんは」
「そんなことないって」
ただ、もう大切な人達が泣いているのを見たくないだけだ。
自分のハンカチを、押し付けるようにヒロトに渡す。風に揺れる鮮やかな赤髪をぼうっと見る。
吉良ヒロトさんは、どんな人だったのかな……。
そんな中、刑事さんが吉良さんに声をかけた。…そっか、吉良さんは、"犯罪者"なんだ…。
瞳「お父さん…」
吉「ありがとう、瞳子。お前のおかげで目が覚めたよ」
グ「っ、父さん!俺、待ってるから!父さんが帰って来るまで、待ってるから!」
「あたしも、吉良さんのこと待ってますから!」
吉「ヒロト…美波さん…」
吉良さんは車に乗り込んで、車は走り出す。ヒロトや玲名達の表情は、とても寂しそうだった。
刑事さんに促されて、玲名達も歩き出す。瞳子監督が守兄ぃ達の所に行ったのが見えて、あたしはヒロトの元から離れた。
瞳「響木監督。円堂君達の事、お願いしてもよろしいでしょうか。ヒロト達の傍にいたいんです」
響「ああ」
瞳「…ありがとう、皆。ここまで来れたのも、皆がいたからこそよ。感謝してるわ。本当に、ありがとう」
『監督!』
「あたし達だって、感謝してます!監督がいたからここまで来れたんです!」
瞳「美波さんには…辛い思いをさせてしまったわね」
「そんなことないです。この旅で、また皆と会えましたから!」
塔子、士郎君、夕弥、リカ、立向居、条兄ぃ、明王ちゃん、ヒロト達お日さま園のみんな。
この戦いがあったからこそ、また会えたんだって、そう思ってる。
瞳「…ありがとう」
もう一度そう言って笑って、瞳子さんも歩き出した。立ち尽くすヒロトの隣に立って、声をかける。
瞳「さあ、行きましょう」
グ「…!……うん」
不器用に差し出された手を取って、2人は歩き出す。手を繋いだ2人は、血は繋がっていないけれど、本当の姉弟のように見えた。
ふと、ヒロトが足を止めた。あたしが渡したままだったハンカチを握り締めて、振り返る。
グ「美波ちゃん、これ、」
「いいよ。返すのはまた会った時でいいから、ね?」
グ「でも…」
「あたしも結局ハンカチもタオルも返せてないしさ、交換ってことで!約束!」
正直に言うと、これは建前だ。また彼らと会いたいから、サッカーがしたいから、口実みたいなものだ。
グ「……円堂君、美波ちゃん。また、会えるよね?」
円「ああ、もちろんさ!」
「またきっと会えるよ!」
「「サッカーさえ続けていれば、絶対会える!」」
グ「…うん!」
2人も車に乗り込んで、どんどん遠ざかっていく。…寂しいけど、別れは出会いへのキックオフなんだ。
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